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秋山幸也 日々是自然観察

第1回カエル 意外と難しいモリアオガエルとシュレーゲルアオガエルの識別

2018-07-06

相模原市立博物館の学芸員で、日本自然保護協会の自然観察指導員講師でもある秋山幸也さんのコラムです。図鑑を見ているだけでは意外と分からないこと、自然観察会のネタになるようなお話しを毎月お届けします。

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図鑑をパラパラとめくっていると、「いったいこれはどうやって見分けるのだろう?」と唸ってしまうようなよく似た種類が並んでいたりします。実際に見てみると意外に簡単に見分けられることもあるし、余計に迷ってしまうこともあります。今回は、そんな似たもの同士ばかりのアオガエルのなかまを取り上げてみたいと思います。

 

全国のアオガエル

日本では、北海道を除いて全国に「アオガエル」と呼ばれるカエルが生息しています。南は八重山諸島のヤエヤマアオガエル、沖縄本島周辺にオキナワアオガエル、奄美諸島にはアマミアオガエル、九州から本州にはシュレーゲルアオガエル、そして本州の日本海側にやや偏った分布をしているのが、モリアオガエルです。正直言って、南西諸島の3種であるヤエヤマ、オキナワ、アマミ(オキナワとアマミは亜種関係)が目の前に並んでいたら、識別できる自信がありません。外見よりも「どこにいたか」が最大の識別ポイントと言えるでしょう。これらの3種の分布域が重ならないために、そんな乱暴な識別ができるのです。

 

分布が広がるモリアオガエル

では、本州の多くの地域で分布域が重なるシュレーゲルアオガエルとモリアオガエルはどうでしょう。もともと、特に内陸部から日本海側では分布域が重なっていた2種ですが、近年、関東地方ではモリアオガエルが分布を広げつつあり、これまで見られなかった太平洋沿岸地域でも見られるようになりました。その原因は、人為的なものなのか、自然の分散なのか、よくわかっていない場所が多くあります。

モリアオガエルにはどういうわけか、「希少なカエル」のイメージがあるようです。実際、都道府県ごとのレッドデータブックで取り上げられている例も多いのですし、少々古い話ですが、1976年発行の記念切手「自然保護シリーズ」の図案になった影響も大きいかもしれません。生息地が山あいの湖のまわりなど森林性で、田んぼや人工池などでふつうに産卵するアマガエルやヒキガエルと比べると、だいぶ馴染み薄です。

 


写真=モリアオガエル。斑紋がある個体。山に棲んでいるイメージががある。

 

さらに希少なイメージを後押ししているのは、繁殖地のいくつかが国指定天然記念物となっていることでしょう。福島県双葉郡川内村平伏沼と岩手県八万平市の大揚沼が「地域指定」されているのですが、トキやオオサンショウウオのように種そのものが指定されているような誤解も多いように思います。

 

私自身がある生息地で実際に遭遇したのは、「珍しいカエルだから卵塊をあちこちに移動して増やしてるんだ」と満足げに説明してくれた地元の方です。その記憶があるせいか、2000年代に入った頃あたりから生息域がどんどんと広がっていった神奈川県内の分布拡大は、人為的な作用が働いているように思えてなりません。 

神奈川県内では、当初は県の最北端の藤野地域のみで見られていたのが、年ごとに南下して現在は丹沢山麓に広く生息しています。またそれとは別に、箱根でも広がりつつあります。部分的には自然の分散といえる場所もあるのですが、突発的な分布の拡がりから人為的としか思えない場所もあります。付け加えると、伊豆大島で広がっているのは明らかに人為的な移入で、国内外来種の扱いとなっています。

  

重なる分布域と識別点

その結果、神奈川県内ではシュレーゲルアオガエルとモリアオガエルの分布が重なる場所が増えてきました。さらに、神奈川県内に限りませんが、シュレーゲルアオガエルの方も、近年になって河原などに分布を広げる傾向があります。原因はよくわからないのですが、以前はいなかったヨシ原の中から、シュレーゲルアオガエルの声が聞こえてくることが多くなりました。 

ただ、もともとこの両種は生息環境が異なり、シュレーゲルアオガエルは基本的に田んぼのカエルです。一方、モリアオガエルは森のカエルで、樹木に囲まれた池沼で繁殖します。これまでは、中山間地の水田や湿地などで生息域が重なっていましたが、繁殖期が早めのシュレーゲルアオガエルに対して、カエルの中でも遅めのモリアオガエルの両種が鳴く時期はあまり重なりませんでした。しかし、いろいろな地域で同所的に生息するようになると、特に低地ではシュレーゲルアオガエルの繁殖の後期と、モリアオガエルの鳴き始めが重なるようになったのです。

 

「シュレーゲル」と「モリアオ」を識別してみよう 

では、どっちか迷う可能性が高くなったこの両種を、実際に識別してみましょう。まず鳴き声です。シュレーゲルアオガエルはリズミカルに「ココココココ」と高い声で鳴き、東南アジアの民芸品によくある、カエル形のギロという楽器を思い出しますあ。木の棒で背中のギザギザをなぞると、小気味よい音が鳴りますが、これがまさにそっくりな音です。モリアオガエルの方は、すこしくぐもった低い音で「グコココ」というように鳴き、シュレーゲルアオガエルよりも少し変則的なリズムです。

★アマガエルの鳴き声  ★シュレーゲルアオガエルの鳴き声 (※それぞれgoogleの検索結果)


写真=シュレーゲルアオガエルそっくりの音が出るギロ

  

さらに、泡状の卵塊をうみつける場所も異なります。

 

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