専門家の回答
平岡先生(山階鳥研)
平岡先生より回答がありましたので、投稿します(事務局)
※isohiyoさんには、事務局からお願いして追加で画像をアップロードしていただきました。
****
追加で画像をアップロードしていただいていましたが回答が遅くなり申し訳ありません。私はこの鳥は、クロハラアジサシでよろしいと思います。
この鳥がクロハラアジサシ属(Chlidonias属)に属する仲間であることは、通常のアジサシなどより、長さに比べて前後の幅がある、相対的に細長くない翼と、尾の燕尾の切れ込みがわずかであるなどの点からわかります。クロハラアジサシ属(Chlidonias属)というのは、「ヌマアジサシ類(Marsh Terns)」などと総称される仲間で、北半球ではクロハラアジサシ、ハジロクロハラアジサシ、ハシグロクロハラアジサシの3種です。
まずこの鳥の齢ですが、体の上面、つまり上背から肩羽が暗色の入った羽毛であるところから、撮影されたのと同年の2017年生まれの幼鳥だとわかります。図鑑をご覧になればわかるように、成鳥では体の上面はいずれも斑のない一様な灰色です。この鳥は、2017年の夏前におそらくユーラシア大陸東部の繁殖地で孵化して巣立って、秋になって日本に渡ってきたと考えられるわけですが、このだんだらの羽毛は、繁殖地で最初に飛べるようになったときに生えた羽なわけです。
そして、3種のヌマアジサシ類のうち、ハシグロクロハラアジサシ幼鳥は、体上面のほか翼上面もかなり暗色に見えること、幼鳥であっても腰がはっきりとした灰色であること等のいくつかの特徴から除外してよさそうです。
さて、クロハラアジサシとハジロクロハラアジサシの識別について、isohiyoさんは繰り返し、頭のパターンは当てにならないと書かれていますが、このことは信頼できる図鑑や識別記事に書かれていたとか、指導的なバーダーの方がおっしゃっていたといったことがあるのでしょうか?日本ではこの仲間について詳細な観察をする機会は乏しいと考えられたので、海外の図鑑もいくつか見てみましたが、頭部のパターンはいずれも参考になる識別点として書かれています。お示しの写真の鳥は頭部の暗色の下縁がほぼ目の下縁にそろっており、耳羽部分の暗色斑の後ろの白が極端に切れ上がって見えないことから、クロハラアジサシにあいます。ハジロクロハラアジサシの幼羽の目の後ろの斑は、縦長で、目の下縁より下に及んでおり、かつ、墨をたっぷり含ませた筆を白い紙の上に押し付けたような、白地に黒々としたはっきりした斑となっています。下記リンクに、ハジロクロハラアジサシ幼鳥の画像があるのでご覧ください。
ハジロクロハラアジサシ(オリエンタル・バード・クラブの画像データベース)
http://orientalbirdimages.org/search.php?Bird_Image_ID=144087&Bird_ID=987
さらに、isohiyoさんもご指摘のとおり、体上面(上背と肩羽)の、赤みを帯びた淡色と暗褐色のざくざくとした模様はクロハラアジサシ幼鳥の特徴として図鑑に記述してあります。ハジロクロハラアジサシ幼鳥の体上面は上のリンクの画像のあるとおり、ざくざくとした斑のない、比較的一様な暗色とされています。
もうひとつ私が注目した特徴として、翼のつけねの胸側の暗色斑があります。この斑は、図鑑に、ハシグロクロハラアジサシ幼鳥で最も明瞭で、クロハラアジサシ幼鳥ではないか、わずかにあり、ハジロクロハラアジサシ幼鳥ではないと書かれています(たとえば、Beaman & Madge著"The Handbook of Bird Identification for Europe and Western Palearctic."(1998年刊)。ハジロクロハラアジサシは亜種がなく、ヨーロッパの鳥の記述が日本で見られる鳥にもそのまま当てはまると考えられます)。画像を追加でお願いした理由のひとつはこの斑の有無を確認したかったためですが、追加していただいた画像からこの部位にぼんやりした暗色斑が見え、この点もクロハラアジサシを指し示しています。
気になるのはご指摘のように,腰の色彩が白く見えることです。ハジロクロハラアジサシの腰は白く、クロハラアジサシの腰は灰色であると図鑑には書いてあります。この点は私もよくわかりませんが、ヨーロッパの図鑑では、クロハラアジサシの成鳥夏羽では腰を背と同様な濃さのはっきりした灰色に描いているものの、幼鳥ではかなり白っぽく描いているものもあります(たとえば、Svensson他著"Collins Bird Guide"第2版.(2009年刊))。さらに写真を拝見すると、上尾筒の先のほうは灰色みが見えますので、腰が白く見えるのは光線状態によって「白飛び」して写っている可能性もあるかなと思います(腰の色彩をまったく別の角度から撮影した写真で見たいというのが、追加で画像をお願いした理由の二つ目でしたが、追加でいただいた画像もほぼ同じ角度からの画像でしたのでこの点についてあまり新しい情報が得られなかったのは残念でした)。
以上ご説明したとおり、複数の特徴の総合判断から私はこの鳥はクロハラアジサシ幼鳥でよろしいと思います。念のため、ヨーロッパでの観察経験のほか、日本、フィリピン、タイ等の東~東南アジアのいろいろな場所で観察経験のあるイギリス人バーダーにも聞いてみましたが、この方の意見も同様でした。
※isohiyoさんには、事務局からお願いして追加で画像をアップロードしていただきました。
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追加で画像をアップロードしていただいていましたが回答が遅くなり申し訳ありません。私はこの鳥は、クロハラアジサシでよろしいと思います。
この鳥がクロハラアジサシ属(Chlidonias属)に属する仲間であることは、通常のアジサシなどより、長さに比べて前後の幅がある、相対的に細長くない翼と、尾の燕尾の切れ込みがわずかであるなどの点からわかります。クロハラアジサシ属(Chlidonias属)というのは、「ヌマアジサシ類(Marsh Terns)」などと総称される仲間で、北半球ではクロハラアジサシ、ハジロクロハラアジサシ、ハシグロクロハラアジサシの3種です。
まずこの鳥の齢ですが、体の上面、つまり上背から肩羽が暗色の入った羽毛であるところから、撮影されたのと同年の2017年生まれの幼鳥だとわかります。図鑑をご覧になればわかるように、成鳥では体の上面はいずれも斑のない一様な灰色です。この鳥は、2017年の夏前におそらくユーラシア大陸東部の繁殖地で孵化して巣立って、秋になって日本に渡ってきたと考えられるわけですが、このだんだらの羽毛は、繁殖地で最初に飛べるようになったときに生えた羽なわけです。
そして、3種のヌマアジサシ類のうち、ハシグロクロハラアジサシ幼鳥は、体上面のほか翼上面もかなり暗色に見えること、幼鳥であっても腰がはっきりとした灰色であること等のいくつかの特徴から除外してよさそうです。
さて、クロハラアジサシとハジロクロハラアジサシの識別について、isohiyoさんは繰り返し、頭のパターンは当てにならないと書かれていますが、このことは信頼できる図鑑や識別記事に書かれていたとか、指導的なバーダーの方がおっしゃっていたといったことがあるのでしょうか?日本ではこの仲間について詳細な観察をする機会は乏しいと考えられたので、海外の図鑑もいくつか見てみましたが、頭部のパターンはいずれも参考になる識別点として書かれています。お示しの写真の鳥は頭部の暗色の下縁がほぼ目の下縁にそろっており、耳羽部分の暗色斑の後ろの白が極端に切れ上がって見えないことから、クロハラアジサシにあいます。ハジロクロハラアジサシの幼羽の目の後ろの斑は、縦長で、目の下縁より下に及んでおり、かつ、墨をたっぷり含ませた筆を白い紙の上に押し付けたような、白地に黒々としたはっきりした斑となっています。下記リンクに、ハジロクロハラアジサシ幼鳥の画像があるのでご覧ください。
ハジロクロハラアジサシ(オリエンタル・バード・クラブの画像データベース)
http://orientalbirdimages.org/search.php?Bird_Image_ID=144087&Bird_ID=987
さらに、isohiyoさんもご指摘のとおり、体上面(上背と肩羽)の、赤みを帯びた淡色と暗褐色のざくざくとした模様はクロハラアジサシ幼鳥の特徴として図鑑に記述してあります。ハジロクロハラアジサシ幼鳥の体上面は上のリンクの画像のあるとおり、ざくざくとした斑のない、比較的一様な暗色とされています。
もうひとつ私が注目した特徴として、翼のつけねの胸側の暗色斑があります。この斑は、図鑑に、ハシグロクロハラアジサシ幼鳥で最も明瞭で、クロハラアジサシ幼鳥ではないか、わずかにあり、ハジロクロハラアジサシ幼鳥ではないと書かれています(たとえば、Beaman & Madge著"The Handbook of Bird Identification for Europe and Western Palearctic."(1998年刊)。ハジロクロハラアジサシは亜種がなく、ヨーロッパの鳥の記述が日本で見られる鳥にもそのまま当てはまると考えられます)。画像を追加でお願いした理由のひとつはこの斑の有無を確認したかったためですが、追加していただいた画像からこの部位にぼんやりした暗色斑が見え、この点もクロハラアジサシを指し示しています。
気になるのはご指摘のように,腰の色彩が白く見えることです。ハジロクロハラアジサシの腰は白く、クロハラアジサシの腰は灰色であると図鑑には書いてあります。この点は私もよくわかりませんが、ヨーロッパの図鑑では、クロハラアジサシの成鳥夏羽では腰を背と同様な濃さのはっきりした灰色に描いているものの、幼鳥ではかなり白っぽく描いているものもあります(たとえば、Svensson他著"Collins Bird Guide"第2版.(2009年刊))。さらに写真を拝見すると、上尾筒の先のほうは灰色みが見えますので、腰が白く見えるのは光線状態によって「白飛び」して写っている可能性もあるかなと思います(腰の色彩をまったく別の角度から撮影した写真で見たいというのが、追加で画像をお願いした理由の二つ目でしたが、追加でいただいた画像もほぼ同じ角度からの画像でしたのでこの点についてあまり新しい情報が得られなかったのは残念でした)。
以上ご説明したとおり、複数の特徴の総合判断から私はこの鳥はクロハラアジサシ幼鳥でよろしいと思います。念のため、ヨーロッパでの観察経験のほか、日本、フィリピン、タイ等の東~東南アジアのいろいろな場所で観察経験のあるイギリス人バーダーにも聞いてみましたが、この方の意見も同様でした。
回答日2018年03月20日
isohiyo
とても親切に教えていただき本当にありがとうございました。
初めて見た野鳥であり、頭部のパターンでの識別も甘かったために混乱しましたが、今回疑問点を分かりやすく指摘していただき、理解することができました。平岡先生の知見、識別方法、ネットワークに感心し、この野鳥の詳細が分かったことを嬉しく思います。
こちらで初めて見た仲間も多かったので、今回の知見を共有して、今後の探鳥にも生かしていきたいと思いました。
初めて見た野鳥であり、頭部のパターンでの識別も甘かったために混乱しましたが、今回疑問点を分かりやすく指摘していただき、理解することができました。平岡先生の知見、識別方法、ネットワークに感心し、この野鳥の詳細が分かったことを嬉しく思います。
こちらで初めて見た仲間も多かったので、今回の知見を共有して、今後の探鳥にも生かしていきたいと思いました。
回答日2018年03月20日
回答