日々是自然観察
第2回セミ 意外と知らないセミのこと ~抜け殻検索表付き!
秋山幸也=文と写真
真夏を象徴する生きものと言えば、昆虫です。鳥は子育てが一段落して囀りはあまり聞かれないし、渡りの時期にはちょっと早い。トカゲやヘビ、カエルもサササッと隠れられる草陰だらけで、しかも気温も体温も高くてすばしっこく、なかなかじっくりと見ることができません。そんな中、昆虫はなにせ発生量のケタが違います。チョウやらコウチュウ類やらカメムシやら、とにかくあたりを見回せば虫だらけなのが、真夏です。今回は、昆虫の中でもさらに真夏の風景の一要素とも言えるセミについて少し詳しく見ていきたいと思います。
意外と長寿なセミ
セミの一生は、長い幼虫期のわりに、地上に出てからの成虫期があまりにも短いという印象からか、「はかない生涯」を象徴する生きもののように言われています。しかし、よくよくセミの一生をたどっていくと、そうでもないことがわかります。
まず、卵はというと、当然ながら成虫の鳴き声の盛んな時期、幹にそっと産み付けられます。卵はすぐには孵化せず、翌年の梅雨時くらいに孵化します。幼虫はすぐさま幹を伝って地面に潜り、木の根っこづたいに張り付くように生活します。樹液を吸うのは成虫と同じですが、根の中を通る樹液は水分ばかりで栄養分が少ないため、その成長はとてもゆっくりです。それでも、網の目のように張り巡らされた根の間は、天敵であるモグラなどから身を守ってくれるシェルターになります。
地中でじつに何年もの間過ごすのですが、アブラゼミで6年前後と言われています。産卵から成虫になるまで6年以上というのは、日本に生息する昆虫の中では格段に長寿と言えるのではないでしょうか。
写真=昆虫としては意外と長寿。アブラゼミの羽化。
成虫になって1週間の命…ではない?
セミのはかない一生のイメージを増幅しているものの一つが、成虫になって1週間くらいしか生きられないという定説?です。しかしこれはかなりの過小評価と言えます。セミの成虫の食べものは樹液で、鋭い口吻を樹幹に差し込んで吸い出します。この力強い採食方法で1週間しか生きられないとすると、ちょっと割に合いません。
セミは子どもたちが虫採りをする時の定番ターゲットです。捕まえて虫かごに入れるのはよいのですが、そのまま放っておくと、翌日にはあっけなく死んでしまっています。飲まず食わずでいれば死んでしまうのはどんな動物でも同じこと。これがカブトムシなら昆虫ゼリーなどの甘いものを入れておけばよいし、バッタなら新鮮な葉っぱをガサガサと入れておけば、とりあえずは生きながらえるでしょう。しかしセミを飼うとなると、まさか木を切り倒して新鮮な幹を与えるというのも非現実的です。セミは、飼うのが最も難しい昆虫の一つかもしれません。
そんなことから、セミは成虫になるとあっという間に死んでしまうというイメージがつきまとうのですが、実は野生なら1ヵ月くらい生きると言われています。成虫になると食べるための口を持たないゲンジボタルや多くの蛾のなかまなら、確かに1週間くらいの命かもしれません。でも、あれだけ樹液をせっせと吸っているセミがそんなに短命なはずはありません。成虫期間の長さも含めて、セミは長寿の昆虫と言えるのです。
セミごよみ
関東地方では、セミの発生は季節の移り変わりのバロメーターとなっています。標高が少し高い山地なら、5月下旬にはハルゼミが「じわわわわー」と鳴き始めます。少し季節が進んで、標高1000メートル以上ではエゾハルゼミが「みょーけんみょーけん……」と独特の節回しで鳴いています。ハルゼミの仲間は比較的涼しげな、春の風を感じさせる声です。しかしこれは前奏のようなもので、6月下旬になると、夏を告げる音色として、平地でもニイニイゼミが「じーー」と鳴き出します。梅雨の終盤、真夏の太陽がむき出しになるころには、「じりじりじり……」と鳴くアブラゼミにバトンタッチします。そのころ、夕暮れを過ぎて暗くなった森の中ではヒグラシが「かなかなかな」と鳴き出します。
このころからが、セミの夏の本番です。日中、ミンミンゼミや「しわしわしわ」のクマゼミが大音量で鳴き、8月に入ればツクツクボウシが加わります。これは秋の半ばまで続き、森の音をしばらくの間席巻します。
写真=関東では、8月に入ったらツクツクボウシが鳴き始める。
楽しい抜け殻探し
梅雨が明ける頃から、木々の茂るところはどこでもセミの抜け殻が目立ち始めます。でも、そのほとんどがなぜかアブラゼミです。ミンミンゼミやツクツクボウシも鳴き声の音の比率から言えば相当な数の抜け殻があってもおかしくないのに、どういうわけか、見つけられる抜け殻のほとんどがアブラゼミなのです。
でも、あれだけほかのセミの声も聞こえるのだから、見つからないわけがありません。ちょっと根気を出して探してみましょう。まず、アブラゼミだと思い込んで見ている濃い茶色の抜け殻の中に、ミンミンゼミが混じっているかもしれません。識別のポイントは、触覚です。これはルーペが無いと見るのは難しいのですが、付け根から数えて3番目の節が長いのがアブラゼミ、前後の節とほとんど差が無いのがミンミンゼミです。ミンミンゼミの鳴き声がする中で探すと結構見つかります。
写真=アブラゼミとミンミンゼミの抜け殻の識別ポイント