いがりまさし 日本のスミレ再考
第3回 ご本家ナンザンスミレとは
◆ソウル近郊がタイプ地のナンザンスミレ
ナンザンスミレは、ソウル近郊の南山をタイプローカリティー(基準標本産地)とする種で、朝鮮半島から中国東北部にかけて分布している。日本では対馬にだけ分布するというのがこれまでの定説だ。一方、本州以南の日本列島にはヒゴスミレが分布するといわれている。
日本産の植物名を網羅した「植物和名ー学名インデックス」(通称Ylist)で標準とされている学名を比べてみると以下のようになる。
ナンンザンスミレ Viola chaerophylloides var. chaerophylloides
ヒゴスミレ Viola chaerophylloides var. sieboldiana
すなわち両者は同じ種の中の変種関係で、さらに、forma、すなわち品種関係ととらえる説もある。
ナンザンスミレの本拠、朝鮮半島にも、両者が分布しているが、あちらの学者はどう見ているのだろう。韓国の文献では、一応、本文にforma sieboldianaという文字は書かれているが、さくいんには入っていなくて、分類群として認められていないも同然だ。
一方、極東ロシアの沿海地方にもViola chaerophylloidesは分布するが、ウラジオストクのロシア科学アカデミー生物学土壌学研究所に収められている標本を調べると、すべて日本ならヒゴスミレとされる型ばかりだった。しかしながら、ロシアでもsieboldianaという種内分類群は一般には使われていない。(Charkevicz 1987)
中国のFlora of Chinaでは、Y listと同じようにvar. sieboldianaと分類されている。
◆朝鮮半島のViola chaerophylloides
とにかく、朝鮮半島を見てくるのが早い。幸い、数年前、修士論文のために日本にスミレを調べに来た、Su-Kill君が、盛んに韓国にスミレを見に来いと誘ってくれている。実現したのは2016年。
果たして、韓国のViola chaerophylloidesの多くはヒゴスミレ型だった。対馬のもののように裂片の広いものもないではないがむしろ例外的だ。多くは本州中部の林の中で時々見られるようなヒゴスミレのような型で、狭葉型とは連続的。いずれにしても、韓国の学者は、ヒゴスミレとナンザンスミレを分ける必要はないと見ているわけだが、フィールドを見るとそれもうなづける。
以下は韓国でナンザンスミレといわれているもの。日本でヒゴスミレと呼ばれるものと顕著なちがいはない。
写真=実見したうちもっとも葉の幅が広いもの。このくらいのものは日本では普通ヒゴスミレと呼ばれる。江原道にて。
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