Close modal
無料トライアル

図鑑ナビ

②初心者にもおすすめ!植物図鑑選び指南 【樹木編】

2018-07-06

『初心者からの植物図鑑選び指南』の後編、今回は樹木図鑑の選び方・使い方をご紹介します。

さて野草と樹木を比べた場合、名前を調べるのはどちらが難しいでしょうか。おそらく、「樹木」と答える人の方が多いのではないかと想像されます。特にビギナーにとって、樹木は手掛かりが少ないように見えると思います。

しかし、理屈の上では樹木の方が簡単とも言えます。なぜなら日本に自生する種(しゅ)の数で比べると、樹木は野草を大きく下回るからです。総数が少なければ少ないほど、名前を突き止めるのはやさしいはずです。

また「手掛かりが少ない」というのも、正しいとは言えません。花が咲いていない樹木だったとしても、葉の形・葉の付き方には同定に十分な情報が含まれています。

きちんと手順を踏んでステップアップさえしていけば、図鑑を使いこなして樹木の名前を調べるのは決して難しいことではありません。実例を挙げながら、樹木図鑑の選び方・使い方を見て行きましょう。

 

初級者向けの樹木図鑑は3種類のアプローチ

ビギナーのころは特にそうですが、野草の名前を知りたいと思うのは、ほとんどの場合、珍しい花・きれいな花に出合った時だと思います。そして、花の色や形態という情報を使ってその名前を調べようとします。

一方、樹木にも花が美しいものはたくさんありますが、こちらは花が咲いていなければ関心を引かないということもありません。花がなかったとしても、「この新緑が鮮やかな生垣は何だろう」とか、「あのおもしろい樹形の街路樹は何というのかな」などと思ったことはないでしょうか。つまり名前を知りたいと思った時に、必ずしも花という情報の宝庫が存在するとは限らないわけです。

しかし花がなくても大丈夫。はじめに書いた通り、日本の樹木の種数は野草よりもかなり少ないので、葉の形・葉の付き方という情報だけでも、候補を絞り込むことが比較的簡単です。

ここで紹介する初級者向けの図鑑は、「トーナメント表」のような検索表を使って葉の特徴から候補を絞り込んでいくもの、葉・花・樹皮などの写真目次から探すもの、花色から検索するものの3種類です。検索表は、上級者向けのものではなく、初心者でも分かるような要素でできています。

ここに載せた初級者向けの図鑑は、どれも数百種を掲載しています。多くはハンディタイプで、『樹皮・葉でわかる 樹木図鑑』だけが大型の図鑑です。いずれもオールカラーの写真図鑑で、全体像と葉や花のアップが掲載され、分かりやすく解説されています。

『フィールド・ガイドシリーズ
葉で見わける樹木 増補改訂版』

著/林将之 小学館

葉で見わける樹木

図入りの検索表を用い、葉の形・葉の付き方など4つのチェック項目で目的の樹木を簡単に探せる。スキャナによる葉の画像・全体像・花などの写真が掲載され、特徴が分かりやすい。471種収録。

『ここの木なんの木?がひと目でわかる!
散歩の樹木図鑑』

著/岩槻秀明 新星出版社

散歩の樹木図鑑

花・果実・葉・樹皮の写真を載せた目次があり、順にめくって検索できる。本文の掲載は分類別。全体像・葉・花・樹皮などの写真を用い、樹木の特徴が簡潔に説明されている。354種収録。


『樹皮・葉でわかる 樹木図鑑』

監修/菱山忠三郎 成美堂出版

樹木図鑑

一覧性の高い「樹皮もくじ」「葉っぱもくじ」などがあり、順に目を通すことで検索ができる。本文の配列は分類順。全体像・葉・花などの写真のほか、幼木・成木の樹皮も掲載されている。255種収録。

『増補改訂 フィールドベスト図鑑 日本の樹木』

監修/西田尚道 学習研究社

日本の樹木

花色から検索できる図鑑。春・夏・秋の3部に分かれていて、ページの端に平地・水辺などの場所ごとのインデックスが付いているので、該当するパートをぱらぱらとめくって検索できる。約240種収録。

 

中級者向けはハンディな総合図鑑か種類別図鑑

 野草の場合もそうでしたが、初級者向けの樹木図鑑を使い続けていくうちに、頭の中におおまかな樹木の「仲間分け」の感覚が出来上がってくると思います。たとえば手のひらのような切れ込みのある葉を対生させ、ブーメランのような一対の果実(翼果)を付ける植物を見たら、カエデの仲間(カエデ属の植物)と推測できるようになるわけです。

もっともカエデ属の葉がすべて同様とは限りません。たとえばクスノハカエデのように切れ込みがまったくない葉、あるいは北米産のトネリコバノカエデのように羽状複葉を付けるカエデもあります。しかしいずれの場合でも、葉の付き方と翼果の形状はほかのカエデ属の植物と変わりません。

初級者向けの樹木図鑑を使いこなすうちに、それぞれの「科」や「属」内の共通する性質と変化の幅を知り、未知の植物であっても分類を推測することができるようになるでしょう。野草の場合もそうでしたが、この段階になると分類別に掲載された中級者向けの図鑑の方が便利です。

ここでご紹介する中級者向けの樹木図鑑は、総合図鑑と種類別図鑑の2種類です。いずれもハンディタイプの図鑑で、新書判からA5判程度の小さな判型ものです。掲載数は総合図鑑で1,000種以上(『山溪ハンディ図鑑 樹に咲く花』は3冊の合計数)、種類別図鑑で50140種ほど。いずれもオールカラーの美しい写真を使った図鑑です。

 

総合図鑑

いろいろな樹木に興味がある人はこの図鑑を選びましょう。『山溪ハンディ図鑑 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』は中級者向けながら、葉による検索機能も完備した図鑑です。『山溪ハンディ図鑑 樹に咲く花』は3冊に分かれていますが、その分写真が多く情報も充実しています。

 

『山溪ハンディ図鑑 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』

著/林将之
山と溪谷社

山溪ハンディ図鑑 樹木の葉

はじめに葉のスキャン画像一覧が掲載され、葉の付き方・形状によって検索できる。本文中の掲載は分類順で、APG体系に準拠している。北海道~九州で見られるほとんどの樹木を掲載。

図鑑jp掲載あり

 

『山溪ハンディ図鑑 樹に咲く花
 合弁花・単子葉・裸子植物』

解説/高橋秀男・勝山輝男
写真/茂木透
山と溪谷社

山溪ハンディ図鑑 樹に咲く花

図鑑jp掲載あり

『山溪ハンディ図鑑 
 樹に咲く花 離弁花1』

監修・解説/高橋秀男ほか
写真/茂木透
山と溪谷社

山溪ハンディ図鑑 樹に咲く花

図鑑jp掲載あり

『山溪ハンディ図鑑
 樹に咲く花 離弁花2』

監修・解説/高橋秀男ほか
写真/茂木透
山と溪谷社

樹に咲く花 離弁花1

図鑑jp掲載あり

上記3冊で合計約1,250種の樹木を収録する。掲載は分類別(新エングラー体系)。全体像と花などのアップはもちろん、芽出しから冬芽まで、樹木のライフステージを詳細に紹介する。主要属の種の見分け方も写真入りで分かりやすい。

 

種類別図鑑

特定の植物に興味がある人向け。薄くて軽いものが多いので、興味がある分野の図鑑を数冊持ち歩くこともできます。写真は見やすく、ハンディな図鑑ながらそれぞれの植物に関しては全種を掲載するものもあり、内容も充実しています。

 

 

『増補改訂 フィールドベスト図鑑日本の野草』

著/猪狩貴史 文一総合出版

日本産カエデ属の基本種27種、および亜種・変種などを含む計50種類以上を収録。葉と果実の写真一覧から直感的に検索することができる。全体像・葉・花・果実などの写真を掲載する。

『ツツジ・シャクナゲハンドブック』

著/渡辺洋一・高橋修 文一総合出版

ツツジ・シャクナゲハンドブック

日本に自生するツツジ・シャクナゲのすべて、65種を収録する。見やすい検索表と写真一覧から、だれでも簡単に検索が可能。全体像・花・葉などの写真と詳細な解説を掲載する。


『増補改訂 フィールドベスト図鑑 日本の桜』

著/勝木俊雄 学習研究社

日本の桜

サクラの仲間(原種・園芸品種・近縁種)140種類以上を収録する。花や葉の特徴による検索表、開花時期別花の写真一覧から検索できる。本文は花色別に掲載され、ページを順にめくって探すことができる。

『冬芽ハンドブック』

解説/広沢毅 写真/林将之 文一総合出版

冬芽ハンドブック

葉がない時期、冬芽だけの状態から落葉樹の名前を調べるユニークな図鑑。約200種を収録する。分かりやすい検索表と高精細な冬芽のスキャン画像一覧を用い、簡単・確実に検索できる。

 

上級者向けは、やはり検索表付きの「植物」図鑑

 ところで、これまで「慣れれば『科』や『属』を推測できるようになる」と簡単に書いてきましたが、「科」の推測に関してはちょっと注意すべき点があります。

植物に興味がある人なら、きっと「APG体系」という言葉を聞いたことがあると思います。これはDNAの解析結果に基づく植物(被子植物)の新しい分類体系で、出版年が新しい図鑑はこれに準拠しているものが多くなってきています。それに対して出版年が古い図鑑は、エングラー体系・クロンキスト体系などの古典的な分類体系に基づいて作られています。

古典的な分類体系は、花などの構造を調べ、その特徴の類似点・相違点から植物同士の類縁関係を推測するものです。外観から判断できるという前提ですから、私たちアマチュア植物愛好家でも、観察によって「科」などを推測することが不可能ではないという、大変便利な体系だったわけです。

ところがAPG体系の場合、観察からの判断が必ずしもあてにならないという事態も生じます。外見が似ているからと言って同じ科とは限らない、あるいは外観が異なっているように見えても同じ科になる場合があるからです。

ちなみに前回の「野草編」で取り上げたオオイヌノフグリ(クワガタソウ属)の場合、エングラー体系ではゴマノハグサ科に分類されていましたが、APG体系ではオオバコ科に分類されます。樹木の例では上に挙げたカエデ属の場合、エングラー体系ではカエデ科とされてきましたが、APG体系ではムクロジ属やトチノキ属などとともにムクロジ科に含められています。

ただしAPG体系によって大きく変わったのは「科」、およびその上の分類階級である「目」であり、「属」の判別に関しては基本的に従来通りの考え方が役に立つと言えるでしょう。また「科」に関してもすべてが組み替えられたわけではなく、エングラー体系と変わらない部分もあります。

従って、エングラー体系の植物図鑑が役に立たなくなったわけでは、もちろんありません。ただしそこに書かれている「科」が、APG体系とは大きく異なる場合があるということだけは、おぼえておいた方がいいでしょう。

さて中級者向けの図鑑を使っていくうち、収録数・情報量ともにさらに充実した図鑑が必要となってくるはずです。この段階になると、植物分類体系のこともおおよそ頭にはいっていることと思います。APG体系に準拠し、検索表によって属と種を絞り込める上級者向けの図鑑を使いこなせるようになっていることでしょう。

下に挙げた『改訂新版 日本の野生植物』は、「野草編・上級者向け」で紹介した図鑑と同じものです。野草と樹木を区別することなく掲載しているために、樹木編でも上級者向けにはこの図鑑をお勧めします。索引を含めて全6巻の大きくて重い図鑑ですが、最新の分類に基づき日本産の種子植物6.800種が取り上げられ、詳細に解説されています。

 

 

『改訂新版 日本の野生植物』

編/大橋広好・門田裕一・邑田 仁・米倉浩司・木原 浩 平凡社

日本の野生植物

全5巻+総索引セット。新しい分類体系であるAPGⅢ・Ⅳを採用し、日本産(帰化植物も含む)の樹木と野草6800種を掲載。属・種の検索表が充実。南西諸島・小笠原諸島の植物にも重点を置く。

 

以上、野草編と樹木編の2回にわたって、植物図鑑の選び方・使い方をご紹介してきました。現代ではネット上の掲示板があり、そこに写真を投稿すれば詳しい人からすぐに名前を教えてもらえるかもしれません。とてもありがたいものですが、それに頼りきりだといつまでも初級者を卒業できないままです。

一方、図鑑を使って自分で調べる習慣があれば、植物観察のノウハウと植物の仲間分けの感覚が自然に身についてくるでしょう。気づいた時には上級者の仲間入りをしているかもしれません。

図鑑を使って調べるのは面倒に感じられるかもしれませんが、やっかいな勉強と考えずに、だれでも参加できるパズルと考えて気軽に始めてみてください。そんなパズルが街や野山にたくさん存在していると思うと、歩くのがもっと楽しくならないでしょうか。

 

 

榛原昭矢(はいばら・あきや)

園芸研究家。ライター、編集者、写真家。著書に『鉢植えでも楽しめる 物語と伝説の植物』(新紀元社)、『育てて楽しむ手のひら園芸』(山と溪谷社)がある。

 

図鑑jpに掲載されている図鑑もあります。
植物の掲載図鑑一覧はこちらからご覧ください

図鑑ナビ

最新コラム