シギチの基本 地球を巡る身近な水鳥
第3回 この40年で半減した日本のシギ・チドリ類
なんと半減した日本のシギ・チドリ類
さて、皆さんは水辺に行かれて鳥が多いなあと感じられたことはありますか? カモ類やカモメ類はそう感じられることがあるかもしれません。しかしながら、シギ・チドリ類は、昔から干潟を観察しているバードウォッチャーの方に話を聞くと目に見えて減ったとおっしゃる方が多いです。現在、数1000羽単位でシギ・チドリ類の群れが観察できるところは国内に多くはありません。
1970年台の高度経済成長時代に干潟など湿地の埋立てが大規模に行われました。そのころから不可逆的な環境の変化に危機感を覚えた方たちにより、全国のシギ・チドリ類のモニタリング調査が始まっています。では、当時から実際どれぐらい増減があったかというと、モニタリング調査の結果を使って1970年代と2000年代のシギ・チドリ類の個体数の比較が報告されています。報告では、春期で約40%の減少、秋期で約50%が減少したと考えられています。また1940年頃から日本の干潟面積は約40%減少しており生息地の消失が影響を与えた可能性は否定できません。
図1 大きく減少したシギ・チドリ類の個体数。出典:天野一葉, 2006. 干潟を利用する渡り鳥の現状. 地球環境Vol.11 国際環境研究協会
種別では、1970年頃から2008年のデータを使って分析された報告があり、シロチドリ、オオソリハシシギ、ハマシギ、タカブシギ、タシギが春・秋の渡りともこの30年間で減少しています。
春期のキョウジョシギ、ツルシギ、ウズラシギ、秋期のチュウシャクシギ、ケリ、ヘラシギなども減少しています。また、報告では、渡りを行うルート(移動経路)に黄海をよく利用する種、水田などの内陸の湿地(淡水)環境を利用する種の減少が指摘されています。
世界規模でも減少するシギ・チドリ類
では、国外に目を向けるとどうでしょうか。水鳥の渡りのルートは、大きく分けると南北アメリカを結ぶルート、ヨーロッパとアフリカを結ぶルート、そして北極圏からアジアとオセアニア地域を結ぶルートがあり、日本が含まれるルートは、「西太平洋フライウェイ」と「東アジア-オーストラリア地域フライウェイ」の2つがあり、特に日本に飛来するシギ・チドリをはじめとする多くの渡り鳥は「東アジア-オーストラリア地域フライウェイ」を利用しています。
図2 世界中に北半球と南半球を結ぶ多くの渡り鳥の「フライウェイ」がある。
この東アジア-オーストラリア地域フライウェイには水鳥が200種以上、5000万羽の渡り性水鳥が生息していると考えられていますが、状況はあまり芳しくありません。年5~9%の割合で個体数が減少しており、シギ・チドリ類個体群のうち、38%が減少傾向にあり、20個体群が国際自然保護連合のレッドリストにおいて絶滅危惧種に該当しています。
絶滅危惧種が多いのですが、人口の多い発展途上の国を含む地域で、今後も急激な生息地の消失が危惧されています。また保全に役立てられる水鳥に関する生態に関する情報も少ない状況です。特にヘラシギの現状は厳しく、総個体数が500羽以下と推定されており、近い将来この風変わりで可愛い鳥がこの世からいなくなってしまう危険が非常に高くなっています。
写真=世界的にも500羽以下という個体数のヘラシギ。三番瀬で撮影
このように国内外で厳しい状況に置かれているシギ・チドリ類ですが、ただ手をこまねいているだけではありません。次回は、保全や保護の枠組についてお話します。
参考文献
天野一葉, 2006. 干潟を利用する渡り鳥の現状. 地球環境Vol.11 国際環境研究協会.
Amano, T., Szekely, T., Koyama, K., Amano, H., Sutherland, W. J., 2010. A framework for monitoring the status of populations: An example from wader populations in the East Asian-Australasian flyway. Biological Conservation, 143 (9), pp. 2238-2247.
Conklin, J.R., Y.I. Verkuil & B.R. Smith. 2014. Prioritizing Migratory Shorebirds for Conservation Action on the East Asian-Australasian Flyway. WWF-Hong Kong, Hong Kong
守屋 年史(もりや としふみ)
NPO法人バードリサーチに勤務。広域に移動する水鳥保護のための「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ」(EAAFP)のシギ・チドリ類の日本国内コーディネーターとして、全国の渡り鳥中継地となる干潟や湿地に足を運び、日夜シギやチドリの調査・保全に取り組んでいる。