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シギチの基本 地球を巡る身近な水鳥

第1回 そもそもシギ・チドリとはどのような鳥か?

2018-04-06

春、身近な干潟や川、水田などで南から渡ってきたシギやチドリを見ることができます。水辺の鳥としてよく知られたこれらの野鳥は、北半球の繁殖地と南半球の越冬地を移動することが知られています。その距離はなんと1年に1万キロ以上にもなります。単純な往復から太平洋を一周するように巡回する種類などさまざまで、シギやチドリは地球全体をダイナミックに利用しています。

超長距離を移動する彼らにとって、中継地である日本の干潟や湿地はとても重要な場所です。羽を休め、ゴカイなどの多くの餌を食べ、次の移動に備えるためです。現在、世界的にシギやチドリの減少が指摘されていますが、それは中継地である日本の湿地の減少とも関係があります。

 

シギやチドリは観察がしやすく、種類の識別も適度に難しいので初心者から上級者まで、それぞれで楽しむことができます。移動の記録やおもしろい生態の観察、レアな迷鳥探しなど、楽しみ方もさまざまです。今回、NPO法人バードリーサーチの守屋年史さんに、そんなシギやチドリの基本的なお話しを寄稿いただきした。これから5回連載の予定です。

(図鑑jp事務局)

 

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そもそもシギ・チドリとはどのような鳥か?

シギやチドリは、日本では渉禽類(しょうきんるい)とも呼ばれますが、これにはサギ類やツル類なども含まれるので、湿地に生息し水の中で餌を探す鳥という意味があるようです。英語では、shorebirds(河口や海岸にすむ鳥)とかWaders(川やぬかるみを渡るもの)、Wading Bird(浅い水中を渡渉してエサを探す脚の長い鳥)は、シギ・チドリ類を指します。

環境省のモニタリング調査では、シギ・チドリ類として、チドリ目のチドリ科、シギ科、ミヤコドリ科、セイタカシギ科、レンカク科、タマシギ科、ツバメチドリ科の鳥を水辺の環境の指標として調査対象としています。体長は、約1060cmと様々ですが、サギ類やツル類、コウノトリ等に比べると小さく群れていることが多い水辺の鳥たちです。

 

チドリ科 ~千鳥足のチドリは本当にいる~

チドリ科は日本国内では3属15種が確認されています。開けた干潟や砂浜、河川敷、水田などでよく観察されます。狂言の演目や俳句では浜千鳥は冬の季語にもなっていて、日本人には昔からよく知られた存在のようです。歓送迎会の多い今時期に「千鳥足」になっているお父さんの様子は、干潟や砂浜の上を急に向きを変えて走ったり立ち止まったりするチドリ科の様子をよく例えていると思います。

彼らは比較的大きな目を持ち、視覚によって表面上のエサを見つけ、細長い脚で素早く駆け寄ってつまみ採ります。干潟に出たゴカイの頭を捕まえてちぎれないように器用に引き出すメダイチドリの様子は見ていて感心します。

チドリ属のコチドリイカルチドリシロチドリ、タゲリ属のケリ(稀にタゲリ)が国内において繁殖が確認されていて、一年中日本に生息しています。他の種は冬鳥や旅鳥として日本を訪れます。


写真=ゴカイ類?を捕まえたメダイチドリ

 

シギ科 ~長いクチバシは進化の証~

シギ科は日本国内では1758種が確認されています。開けた干潟や砂浜、河川敷、水田など水辺に関わる場所ではよく見かけます。基本的にクチバシと脚が長く、浅い水辺でクチバシを使って水中や底面をつつきながら移動します。クチバシは例えるなら圧力センサーとなっていて土中のエサを探り当てます。ことわざにある『鷸蚌の争い、漁夫の利となる』の鷸(シギ)ですが、蚌(貝)のほか、ゴカイ類や魚類、甲殻類、昆虫類など多種多様なものをエサとしています。

 


写真=クチバシが下に大きく湾曲しているホウロクシギ

 

最近では、小型のシギは干潟のバイオフィルムと呼ばれる微生物などで構成された粘質の多糖類の薄膜層を食べていることも分かってきました。クチバシの形状も様々で上に反っているオオハシシギ、下に曲がっているダイシャクシギ、長く真っ直ぐなタシギ、短く太いキョウジョシギ、ヘラ型の独特な形状をしたヘラシギなど、異なる種がよく似た環境に生息するので、エサの競合を避けるためにくちばしの形が多様になっているのではないかと推察されています。

 

ほとんどが渡り鳥で日本は中継地

国内で繁殖している種は、イソシギアカアシシギ(北海道の一部)、オオジシギヤマシギアマミヤマシギ(奄美諸島の樹林地)であまり多くありません。ほとんどの種は毎年ロシア、アラスカなどで繁殖し、アジア、オーストラリア地域で冬を越すため長距離の往復をする旅鳥で、日本の湿地は中継地として利用されています。

 

その他、チドリ科、シギ科以外で日本でやってくるシギ・チドリ類には以下のような種類がいます。

・ミヤコドリ科ミヤコドリ:冬鳥として日本にやってきて貝類を主に食べる。

・セイタカシギ科セイタカシギ:頸や脚が長くスラッとした姿で国内で局所的に繁殖。同じ科のソリハシセイタカシギは、冬の沖縄に少数が渡来し、体が白と黒で、細いクチバシが上に反った美しいシギ。

・レンカク科レンカク:稀に日本に渡来し、非常に長い趾を持ち蓮鶴の名の通り、ハスの葉の上を移動しながらエサを探す。

・タマシギ科タマシギ:水田などの内陸の湿地で繁殖していて、繁殖期の夕方にコーッコーッと独特の声を響かせる。

・ツバメチドリ科ツバメチドリ:頸やクチバシは短く、長く尖った翼を持っている。国内の開けた地面のあるところで局所的に繁殖し、コアジサシのコロニーに混じることもある。

 

春には繁殖地に向かうシギ・チドリ類が日本に立ち寄ります。彼らに会うにために水辺にお出かけしてみてはいかがでしょうか?

 

※種数は「日本鳥類目録 改訂第7版」(2012,日本鳥学会)を参照

 

守屋年史
NPO法人バードリサーチに勤務。広域に移動する水鳥保護のための「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ」(EAAFP)のシギ・チドリ類の日本国内コーディネーターとして、全国の渡り鳥中継地となる干潟や湿地に足を運び、日夜シギやチドリの調査・保全に取り組んでいる。

 

 
※終了しました

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