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シギチの基本 地球を巡る身近な水鳥

第2回 シギ・チドリと湿地の深い関係

2018-04-13

シギチの生息地の「湿地」とはどのようなところか?

 

シギやチドリは「湿地」に生息しています。みなさんは、湿地というとどのような環境を思い浮かべますか? 木がまばらに立ち、草と間に池の水面が見え隠れするような湿原を多くの人は想像するのではないでしょうか。

 

1971年に「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」として採択されたラムサール条約※では、「湿地とは、天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、更には水が滞っているか流れているか、淡水であるか汽水であるか塩水であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地 又は水域をいい、低潮時における水深が6メートルを越えない海域を含む。」(条約第11項)と定義されています。

 

つまり、干潟、砂浜、湿原はおろかマングローブ林、サンゴ礁や水田、溜池、ダム湖などの人工環境など、あらゆる水辺と言われる環境が含まれます。また、それらの浅い水辺はいずれもシギ・チドリが渡来する場所です。

 


写真=東日本大震災前の宮城県蒲生干潟。いわゆる干潟だけでなく砂浜や潟湖、河口、塩性湿地など、多様な湿地が存在している

 

 

あらゆる「湿地」に生きるシギ・チドリ

 

かし、各種によって好む環境があります。海水域である干潟ではイシャクシギオオソリハシシギダイゼンハマシギなどが渡来し、タカブシギオグロシギツルシギセイタカシギ、ジシギ類などは水田などの淡水域でよく観察されます。

 

また干潟の中でも、砂質や泥質といった底面の状況によって貝が多かったり、ゴカイが多かったりするので、好みのエサの種類によって同じように見える環境でもシギ・チドリ類の種類の構成が変わってきます。

 

干潟に穴を掘って住むアナジャコを引き出して捕まえるホウロクシギや干潟表面にでてきたコメツキガニをさらっていくソリハシシギ砂浜のシオフキガイをこじ開けて食べるミヤコドリまばらに草が生えた乾燥した場所で昆虫などを捕まえているムナグロは、農耕地や草地でよく観察されます。水面のエサをつまみ上げるヒレアシシギ類は、シギには珍しく水面に浮かんでいて水深があるところでも問題ありません。エサのある環境が彼らを惹きつけるのです。

 

 


写真=シオフキガイを捕まえたミヤコドリ(千葉県三番瀬)

 

 

また、繁殖する環境によっても種類は異なります。シロチドリコチドリイカルチドリは、砂や小石がある開けた場所で繁殖するチドリですが、シロチドリが砂浜の細かい砂地、コチドリは砂地から小石混じりの場所、イカルチドリは河川中流以上の礫がある河原で繁殖します。

 

生息環境とは異なりますが、渡りの途中では変わった場所でも観察されていて、オバシギは秋に標高約2600mの北アルプスで観察されています。普段は干潟で貝を食べるオバシギは、この時はクロマメノキの実を採食していたそうです。迷ったのだと考えられますが、幅広い食性は大きな移動をする彼らには必要な能力なのかもしれません。

 

一概に水辺とは言っても、そこにいるのはシギ・チドリ類というひとまとめの集団ではなく、それぞれに好む環境が異なります。どんな種類がいるかということが湿地の質や多様性を表していますので、いろいろな水辺を巡って、そこにいるシギ・チドリを観察してみてはどうでしょうか。

 

 ※ラムサール条約:(環境省:ラムサール条約と条約湿地 https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/4.html#Q7 

 

(参考)シギ・チドリ類採食写真集 https://www.bird-research.jp/1_katsudo/shigichi_food/index_food.html 

 

 

守屋 年史(もりや としふみ)

NPO法人バードリサーチに勤務。広域に移動する水鳥保護のための「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ」(EAAFP)のシギ・チドリ類の日本国内コーディネーターとして、全国の渡り鳥中継地となる干潟や湿地に足を運び、日夜シギやチドリの調査・保全に取り組んでいる。

 
※終了しました

 

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