Close modal
無料トライアル

シギチの基本 地球を巡る身近な水鳥

第5回 数えて見守るという方法

2018-05-08

なぜ、シギ・チドリの数を数えるのか?

世界を行き交うシギ・チドリ類を日本だけで守っていくことはなかなか難しいのですが、国外には水鳥のネットワークが構築され、中継地の日本としても生息地の保全の他にも貢献できることは数多くあります。

そのひとつが、私も関わっているシギ・チドリ類のモニタリング調査です。モニタリングというのは、定期的に監視をしておくということです。シギ・チドリ類が増えたか減ったかというのは、毎年観察している方には肌身をもって感じることですが、説明しようとすると客観的な資料が必要となります。しかし、減少に気づいてから数を数え始めても手遅れで、普段を把握しながら変化を感知するセンサーを準備しておく必要があります。

日本各地の干潟でシギ・チドリ類の観察をしていた方々が、1970年代前半に、日本野鳥の会や日本鳥類保護連盟の声掛けで全国調査を開始しました。それは、JAWAN(日本湿地ネットワーク)や環境省など主催団体を変えつつも継続され、約45年の歴史が積み上がっています。全国規模の調査がこんなに長期間続いているのは珍しいのではないかと思います。


写真=干潟でシギ・チドリ類のカウント調査を行う。

 


写真=シギの群飛(大分県中津干潟)

 

現在は、環境省事業のモニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査として受け継がれていますが、調査を市民が担っているというところは変わりません。シギ・チドリ類の市民調査は、湿地の近くに住む地元の人は、アクセスも良く、地域の自然環境を見守っていきたい情熱をもち、最も環境の変化に気づきやすいことから行われていて、年間延べ200名の方が関わっています。私は市民が身近な自然の変化を自分のこととして捉え参画していることが、この調査の最も肝心な部分だと思っています。

 

データを活用してシギ・チドリ類を守る

このようにして得られた膨大な調査データを整理分析し、増えているのか減っているのか、その増減の原因はなんだろうかなどを専門家が検討し、報告したりしています。結果として、絶滅の危険度を評価した環境省のレッドリストに反映されたり、ラムサール条約登録湿地やフライウェイ登録湿地の評価や保護区を設定する際の参考にされており、国の生物多様性保全の基礎を支えています。また、アジアウォーターバードセンサス(AWC)という東アジアの水鳥調査にもデータは提供されています。

また、東アジア地域全体の水鳥の個体数の推測に使われ、重要な国際貢献になっています。今後は、日本の調査体制や高いバードウォッチャーの調査レベルを背景に、国外に鳥の識別や観察、モニタリングの方法をアドバイスするという事でも貢献できそうです。また、日本の沿岸開発の歴史や経験も、存在して当然のように享受しているものが失われた時に気づくのでは遅いという教訓として役立つかもしれません。同じ水鳥を北極圏から東南アジア、オセアニアで見ていますから、情報を共有するだけでも大変な資産です。身近な湿地は世界につながっています。

 

生物多様性を守ると言うこと

このような自然環境の監視によって、生物多様性の保全になんとなく役立ちそうということは、分かっていただけたかと思いますが、すべての恩恵が人の利益になる訳ではありませんし、一部の自然だけ守ればいいのではないかと思う方もいると思います。

なぜ生物多様性を保全する必要があるのでしょうか。じつは生物や環境の関わりがどのように関係を保っているかは分かっていないことも多く、均衡が崩れて自然環境が失われた時に、水や食べ物を安心して手に入れることが出来ない怖れがあり、私たちの健康や資産にも関係があるという考え方があります。ただ人の都合はそうでも野生生物はそんなことお構いなしに生活していますし、長い年月をかけて現在に生存しているだけでも彼らは地球の財産です。よく分かってないなら次世代に託すために保全しつつ、持続的に利用していったほうが賢そうですよね。


写真=北海道風蓮湖の湿地風景


さて、週末には全国でシギ・チドリ類を数えようというイベント行います。ここまで書いておいてなのですが、あまり生物多様性とか自然保護とか考えずに、いい季節ですし湿地で風にそよがれてはいかがでしょう。気持ちの良い空間を与えてくれることも生物多様性のひとつの恩恵です。

 

 

守屋 年史(もりや としふみ)

NPO法人バードリサーチに勤務。広域に移動する水鳥保護のための「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ」(EAAFP)のシギ・チドリ類の日本国内コーディネーターとして、全国の渡り鳥中継地となる干潟や湿地に足を運び、日夜シギやチドリの調査・保全に取り組んでいる。

 





※終了しました

シギチの基本 地球を巡る身近な水鳥

最新コラム