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きのこ分類最前線

テングタケ属 -きのこの花形、新種も続々!

2018-08-07

「テングタケ属キャンペーン」の連動企画として、今回はきのこの花形、きのこの王様!「テングタケ属 (Amanita)」を概説します。

 

テングタケ属の分類概論

テングタケ属菌は現在全世界で約500600種ほどが認められています。初心者でもすぐに覚えられる分かりやすいグループとの印象がありますが、実はテングタケ属菌を特徴づける様々な形質、例えば「ひだが白色であること」「ひだが離生すること」「つばを持つこと」「つぼを持つこと」「柄の基部が塊茎状になること」「胞子紋が白色であること」などにはそれぞれ反例が存在することが知られています。つばを持つこと」の反例には「ツルタケ」の仲間がすぐに思いつきますが、「タマゴタケ」のひだは黄色ですし、胞子紋が若干着色する種もあるなど、なかなか100パーセントこれで決まり!という形質はないのが難しいところです。

非常に専門的な話をすると、テングタケ属は子実体が「シゾハイメニアル (schizohymenial)」という特徴的な発達様式をとる点で他のハラタケ類と明確に異なるので、厳密な定義ではその形質が言及されます。とはいえ、ある程度慣れてくれば、一目見て「これはテングタケだ」という直感はまず外れないので、このグループの専門家でなければ、属レベルの同定はそこまで気に掛ける必要はないでしょう。

テングタケ属であることが分かれば次はその下位、亜属レベルの分類です。テングタケ属はテングタケ亜属 (Amanita) とマツカサモドキ亜属 (Lepidella) 2グループに分けられます。概ね、傘の縁の部分に条線(溝線)があれば前者、なければ後者という分け方をされることが多いですが、厳密な定義はさらに難しいというのは属レベルの事情と同様なので、あくまでフィールドでの簡易な鑑別法と捉えてください。ちなみに、「ドクツルタケ」など致命的な猛毒菌の多くは後者に属しますが、毒きのこはどちらのグループにも含まれますので、決して「条線があれば食べられる」という迷信を信用してはいけません。有毒種の「テングタケ」にも「ベニテングタケ」にも、近縁種に死亡例がある「ウスキテングタケ」にも条線はあります!

テングタケ亜属の中で「つば」を持たないことで特徴づけられる分かりやすいグループが「ツルタケ節 (Vaginatae)」です。傘に条線があり、つばが無いテングタケ類を見かけたら、まずこの仲間を調べてみましょう。ただし、つばが無いテングタケが本当に元々それを持っていなかったのか、という疑問は常に持つ必要があります(テングタケに限らず、きのこの同定全般に必要なセンスです)。生長に伴い、あるいは風雨に晒されることで失われる早落性のつばを持つ種は多くあります。なお、世界を見渡すと、「つばを持つツルタケ」も無くはありません。多くは熱帯アフリカ産の種ですが、2017年に中国からつば有りツルタケの新種「Amanita cingulata(アマニタ・キングラタ)」が報告されており、日本でも絶対にこの常識が通用するとは言えなくなるかもしれません。

 


つばがないツルタケ節の一種

 

テングタケ属の種レベルの分類・同定では、どちらかというと肉眼的形態が重視される傾向にあります。下図は筆者がこれまで読んだ論文に掲載されていた、テングタケ属2種の相違点(識別形質)に関する記述をカテゴリー別に集計したもので(51論文、n=1,388)、研究者が本属の分類にあたってどの部分に着目しているかを大まかに示す図といえます。つまり、「プロはここを見る!」です。筆者の実感とも一致するのですが、テングタケ属のひだにはあまり種ごとに差がありません(「オオツルタケ」などひだの縁取りが重要な種も一部ありますが)。

一方、傘と柄の色合いには種ごとに大きな違いがあり、表面の被膜の名残も、色や形状(いぼ状、ピラミッド状、パッチ状)などが重要な手掛かりになります。「つば」や「つぼ」は属の特徴ですが、種レベルでは相対的に重要度が落ちるようです。顕微鏡で見てもあまり面白い構造は見られませんが、担子胞子のサイズと形状は種レベルの識別に有用です。種レベルではなく亜属レベルの識別にはメルツァー反応の有無が鍵になるので、覚えておくと役に立つでしょう。

 


図1
テングタケ属の論文における識別形質まとめ


図2
ハラタケ目全体の論文における識別形質まとめ

 

テングタケ属の識別形質グラフをハラタケ目全体(776論文、n=22,012)のグラフと比較すると、例えば以下の点が読み取れます。

・テングタケ属の分類では、相対的に肉眼的形質が重視される傾向がある
・つばとつぼの形質が分類に用いられるのが特徴的だが、割合としてはそれほど大きくない
担子胞子の表面性状やシスチジアの形態は属内の分類には用いられない(全て担子胞子が平滑で、シスチジアを持たないため)

 

近年(2011年~)の分類最新動向

次に、『日本のきのこ 増補改訂新版』(山と溪谷社/2011年)の出版以降、現在までのテングタケ属の動向を概説します。

まず、近年はTulloss博士らが運営するテングタケ専門のWebサイト、『Amanitaceae.org』がこの属の分類学に主導的な役割を果たしているといえます。未記載種を含む世界中の種の記載文のほか、参考文献一覧や用語集、研究のノウハウ等も含む豊富な情報が掲載されており、テングタケ類を詳しく知りたい方はまずここを訪れるべきでしょう。2014年にはこのサイトを母体とした学術雑誌『AMANITACEAE』も創刊され、近年発表された新種には、いわばこのサイト生まれの種が複数存在します。

 

テングタケ属は1990年代の分子系統解析の到来以後も、属という単位では分類学的に目立った動きがなく、激動のさなかで解体の憂き目にあった他のグループと比べれば、さながら凪のような平穏を享受してきました。それは、このグループの単系統性が当初から強く支持されていたことによります。言い換えると、分子系統解析によって浮き彫りになったグループの姿が、それまでの研究の蓄積により形作られたこの属の「概念 (concept)」とよく一致したということです。一段階上位の「テングタケ科 (Amanitaceae)」に視点を移しても、大多数を占めるテングタケ属のほか、ヌメリカラカサタケ属 (Limacella) と単型属の「カタトラマ (Catatrama)」属の3属のみからなる比較的一様性の高い科で、ほぼ変化はありませんでした。古い図鑑で「テングタケ科」と書かれていたら、現在もこの科に属すると考えて間違いないでしょう。

しかし、このグループに全くDNAの大波が押し寄せなかったわけではありませんでした。テングタケ類といえばイグチやベニタケの仲間とともに代表的な菌根菌として認知されていますが、一部の種が腐生性の生活様式をとるといわれており、それらがテングタケ属の「本体」とは異なる独立したグループを形成するという仮説が立てられました。2012年に「アスピデラ(Aspidella)」属として分けられたこのグループは、命名規約上の問題により2016年に「サプロアマニタ(Saproamanita)」属と改名され、23種がここに含められました。「sapro-」とは「腐生性の」という意味なので、こちらの名前の方がグループの特徴をよく表しているといえます。ただし、ある菌が菌根菌(腐生菌)であることの証明は容易ではなく、例えば木材の分解に必要なセルラーゼ遺伝子を持っているかどうかで明確に峻別できるわけでもないようなので、サプロアマニタ属が本当に腐生性で特徴づけられるグループなのかどうかは分かりません。

また、同2016年に、『Amanitaceae.org』のグループはテングタケ属を分割するべきではないと主張する反論文を発表し、研究者の間で大きな論争を引き起こしました。2018年現在も合意には至っていません。

さて、上述した通り「属」の単位ではサプロアマニタの一群を除いて堅固さを保っていたテングタケ属ですが、「種」レベルでは大きな変化が認められます。近年は世界各国から数多くの新種が発表されており、その数はデータベース「MycoBank」によると、2011年からの約6年半で「64種」にものぼります。18世紀から存在するこのグループが全体で500600種程度であることを鑑みると、この数はまさしく急増といえるでしょう。未記載種も多数認知されているので、今後さらに増加が見込まれます。

 
図3 テングタケ属の国別の新種数(2011年~2018年)*横軸は種数

 


図4 テングタケ属の年別新種発表数 *縦軸は種数、横軸は年

 

以下、いくつか興味深い新種をご紹介します。

Amanita ballerina(アマニタ・バッレリナ) - タイ産。バレリーナのようなフォルムということで名付けられた純白の種です。面白い命名ですが、特段変わった形状ではないので、それを言うなら同じ純白の「ドクツルタケ」や「シロタマゴテングタケ」もバレリーナじゃないかというツッコミは野暮ですね。

Amanita vernicoccora(アマニタ・ウェルニコッコラ) - 米国産。カリフォルニアなど米国西海岸地域には、イタリア系アメリカ人の間で「コッコラ(コッコリ)」の名前で親しまれている食用きのこがあります。何でも、故郷の「カエサルのキノコ(セイヨウタマゴタケ)」を思い出すとか。「春型」のコッコラは生息環境や色のほか、味までも異なるといわれてきましたが、この度新種として分けられることになりました。(参考:http://www.bayareamushrooms.org/mushroommonth/coccora.html

Amanita viridissima(アマニタ・ウィリディッシマ) -ブラジル産。「緑色の」に最上級がついた種小名の通り、テングタケの仲間としては異例の緑色の種です。日本にも「アオミドリタマゴテングタケ」がありますが、それとは違う系統の緑色に見えます。

 

なお、残念ながら、この64種の中には日本産の新種は含まれていません。『日本のきのこ 増補改訂新版』には新規収録種として「フチドリタマゴタケ」が掲載されましたが、これは2004年に発表された種です。ただ、着実に日本産テングタケ属菌の解明は進んでおり、遠藤直樹氏らが2016年に、それまで「Amanita hemibapha(アマニタ・ヘミバファ)」とされていたタマゴタケの学名を正式に「Amanita caesareoides(アマニタ・カエサレオイデス)」に変更したほか、「キタマゴタケ」や「チャタマゴタケ」の学名にも再検討を要することなどを示し、このグループの全貌を明らかにしつつあります。また、西表島からは日本新産種「ナンヨウシロタマゴタケ」も報告されています(『南西日本菌類誌 軟質高等菌類』 東海大学出版部/2016年)。

 


学名が変更されたタマゴタケ。

 


キタマゴタケ周辺も分類が再編されつつある

 

本邦にも、その美味しそうな (?) 風貌からあだ名されている「ティラミステングタケ」、ハマクサギのような独特の悪臭がある「ハマクサギタマゴタケ」、臭いを嗅いだだけでクシャミや鼻水が止まらなくなるという「キヒダキワタゲテングタケ」など(以上いずれも仮称)、一度出会ったら忘れないほどの顕著な特徴を持つテングタケ類が複数認知されているものの、いずれも不明種にとどまっているのが現状です。中国やタイなどから続々と報告されるアジア産新種の情報を逐次フォローしていなければ、これらの「不明種」が本当に今もなお「未記載種」だとは言い切れなくなるかもしれません。中国からは2015年に130種を収めた大著「中国鹅膏科真菌图志」が発刊されていますが、日本のテングタケ属菌がまとめられるのはいつのことになるでしょうか。今後の研究に期待しましょう!

 

追記:本稿校正中の2018年7月31日に、インドからさらに1新種(Amanita tullossiana)が記載されました。日本のコナカブリテングタケなどに近縁の種です。

 

中島 淳志(なかじま・あつし)

1988年生まれ。アマチュア菌類愛好家(マイコフィル)。著書に『しっかり見わけ観察を楽しむ きのこ図鑑』(ナツメ社/監修:吹春俊光・写真:大作晃一)がある。全菌類の横断検索データベース「大菌輪」を運営。http://mycoscouter.coolblog.jp/daikinrin/

 

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