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今年こそ見分けたい!身近な植物識別講座

第2回 センダングサの仲間

2018-08-23

この連載では、掲示板でもお馴染みの小林健人先生(長池公園 副園長)が、ご自身の経験を交えながら、その季節によく見られる身近な植物の見分け方を教えてくださいます。

第2回目は"センダングサ"の仲間です。 

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センダン+草=センダングサ

エノキグサ、クワクサ、クサニワトコ(ソクズ)、クサフジ、クサボタン、クサヤツデ……。これらの植物の共通点はいったい何でしょうか? そう、いずれも和名に樹木の名前が添えられた草花です。それぞれがどんな草花なのか知らなくとも、身近な樹木を連想することで “フジのような雰囲気の草” “ニワトコそっくりの草”というように、その容姿が想像できます。今回ご紹介する「センダングサ(センダン+草)」も、このようにして名付けられた草花の一つです。

 


野原に群生するコセンダングサ

 

樹木のセンダンをご覧になったことがある方は、センダングサとは花や果実の見た目が全く異なるため、不思議に思われるかもしれません。しかし、葉に注目してみるとその所以がはっきりします。センダングサの仲間の多くは、センダンの葉と同じように規則的に葉が並ぶ「羽状複葉」を持っているのです。この特徴はセンダングサの仲間を見極める上でとても重要な形質です。花の見かけが何となく似ているメナモミやガンクビソウの仲間などは、みな単葉を持ち、葉が切れ込んだり複数に分かれたりしていません。これらの植物とセンダングサの仲間を見誤らないためには、羽状複葉の葉を確認するのが一番なのです。

名前の由来となった落葉高木のセンダングサ
名前の由来となった落葉高木のセンダン

 

夏の終わり頃から、あちらこちらで目に付くようになるセンダングサの仲間たち。出会った時に一目で種類が見分けられたら爽快だと思いませんか?花と葉の特徴を覚えてしまえば、多くの種類は容易に見分けることができます。ここで予め、識別のポイントを予習しておきましょう。

 

まずはコセンダングサが基本

さて、関東近郊の平地~丘陵地で目にすることのできるセンダングサの仲間は、タウコギ、アメリカセンダングサ、コセンダングサ(※コシロノセンダングサとアイノコセンダングサを含む)、センダングサ、コバノセンダングサの5種類です。

この中で最もポピュラーな種はコセンダングサです。道端や空き地、草原、河川敷など、木陰となる樹木の少ない場所であれば、あらゆる環境で群生しているのを見つけることができます。枝分かれした茎の先端に咲く花(頭花)は、黄色っぽい色をした筒状花のみからなり、花びら状の舌状花が全く見られない点が特徴です。花だけを見れば、花びらが落ちて丸坊主になった野菊のような印象です。葉は、12回羽状複葉と呼ばれる美しい分かれ方をしており、一枚一枚の小葉には細かいギザギザがあります。さらによく見ると、葉の軸の部分などに白い毛が生えていることも重要なポイントです。

コセンダングサの全形。坊主の頭花と羽状複葉の組み合わせが特徴コセンダングサの全形。関東近郊では最も見かける機会が多い

コセンダングサの頭花。舌状花を欠き、総苞片(頭花を取り囲む緑色の部分)も目立たないシンプルな外見である

コセンダングサの葉。小葉には細かい鋸歯があり、軸などに短毛が見られるコセンダングサの葉。小葉に細かい鋸歯があり、軸などに短毛が見られる 

★コセンダングサを図鑑jpで確認

 

通常、コセンダングサに花びらのような舌状花はありません。しかし、筒状花の周りに白い舌状花が数枚付いているタイプがしばしば見つかります。
この白い舌状花のあるコセンダングサ(広義)は、コシロノセンダングサ(=シロバナセンダングサ、シロノセンダングサ)と呼ばれ、コセンダングサの変種として位置付けられています。このタイプでは、白い舌状花の大きさや枚数には様々なバリエーションが見られます。また、小さな舌状花が不規則に見られるものは、コセンダングサとコシロノセンダングサの雑種と推定されており、アイノコセンダングサと名付けられています。白い舌状花を持つセンダングサ類はこのほかに、南方系のハイシロノセンダングサ(=ハイアワユキセンダングサ)やオオバナノセンダングサ(=タチアワユキセンダングサ)が知られていますが、関東近郊で見る機会はほとんどありません。これらは頭花の直径が3cm程度と大輪であることが目安になりますが、果実(瘦花)の形態など細かい部位を確認しなければ確実に種を同定することが難しいと言われています。関東近郊で白い舌状花(おおよそ1cm以内)のあるコセンダングサを見つけた場合、そのほとんどはコシロノセンダングサか雑種のアイノコセンダングサだと思って良いでしょう。

コシロノセンダングサの全形。コセンダングサと非常によく似ている
コシロノセンダングサの全形。頭花を除き、コセンダングサとの違いが見られない

コシロノセンダングサの頭花。白い舌状花は遠くからでも目立つ

コシロノセンダングサの葉。葉だけでは、コセンダングサと区別がつかないコシロノセンダングサの葉。葉だけではコセンダングサと区別できない  

★コシロノセンダングサを図鑑jpで確認

 


アイノコセンダングサ。ごく小さな白い舌状花がまばらにある

 

水辺で見かける違う顔

コセンダングサに次いで身近な場所でよく見られる種に、アメリカセンダングサ(=セイタカタウコギ)があります。コセンダングサと比べて湿った場所を好む傾向があり、田んぼの周りや水路、湿地などに群生しています。アメリカセンダングサの頭花は、舌状花がごく小さくて筒状花のみに見えるため、コセンダングサとよく似ていますが、頭花のすぐ下にある緑色の総苞片が目立ちます。総苞片は頭花を取り囲むように放射状に開き、一見すると、まるで緑色の花びらのように見えます。この独特の“顔”を覚えてしまえばコセンダングサと見間違うことは無いでしょう。また、葉にも違いがあります。コセンダングサの鮮緑色とは対照的に、深緑色をした葉は1回羽状複葉と呼ばれる形です。コセンダングサのような白い毛は見られず、小葉にはより鋭いギザギザがあります。全く類縁関係はありませんが、ヌルデの赤ちゃん(実生)と似ています。一度見慣れてしまえば、花が無くてもすぐにそれと判るようになるでしょう。

アメリカセンダングサの全形。茎や葉の軸は紫色を帯びることが多いアメリカセンダングサの全形。茎や葉の軸は紫色を帯びることが多い

アメリカセンダングサの頭花。総苞片が緑色の花びらのように見え、よく目立つ

アメリカセンダングサの葉。中軸は無毛、葉柄に翼は無し。形もシャープアメリカセンダングサの葉。中軸は無毛で、葉柄に翼はない。形もシャープ

ヌルデの実生。アメリカセンダングサとよく似るヌルデの実生。アメリカセンダングサとよく似ている 

★アメリカセンダングサのページ

★ヌルデのページ

 

アメリカセンダングサよりもさらに水辺環境に依存して生育する種として、タウコギがあります。タウコギは、水田の内部や畔などに生える日本の在来種です。水田雑草として日本全土に分布していますが、関東近郊では激減しており、出会えたら幸運といえるほど希少な植物となっています。アメリカセンダングサとは外観がよく似ていますが、両者の相違点としてタウコギは、①茎が緑色をしており、断面が丸いこと(前者は紫色を帯び、断面は四角形。)、②葉は単葉で全く裂けないか35裂し、縁には鈍いギザギザがあること、③頭花も総苞片もアメリカセンダングサと比べてより大きく、総苞片は葉状になること、などの特徴があります。特に複葉を持たないという葉の特徴は、開花時期以外でも判断しやすい大事なポイントといえるでしょう。アメリカセンダングサよりも見かける機会はぐっと少ない植物ですが、自然度の高い田んぼが残っているような地域では、ぜひ探してみて下さい。

タウコギの全形。茎はよく枝分かれし、その頂部に1個の頭花をつけるタウコギの全形。茎がよく枝分かれし、その頂部に1個の頭花をつける

タウコギの頭花。総苞片が大きく、葉のように見える

タウコギの葉。茎上部の葉は切れ込みがない単葉であることが多い

★タウコギを図鑑jpで確認

 

出会うと嬉しい黄色の花びら 

センダングサの仲間を丹念にチェックしていくと、稀に黄色い舌状花を持ったものに出くわすことがあります。関東近郊において、黄色い舌状花を持つセンダングサ類は、センダングサとコバノセンダングサが候補となりますが、いずれも見かける機会が少ない珍品です。そのため、予期せぬ場所で発見した時には、まるで当たりくじでも引いたかのように小躍りしてしまいます。

センダングサは、日本の在来種(※古い時代に渡来した史前帰化植物と推定されています。)で、かつてはどこにでも見られたようですが、現在ではそのニッチが外来種のコセンダングサやアメリカセンダングサに置き換わっているためか希少種となってしまいました。東京都でも現存する自生地は西多摩方面や南多摩の一部、および島嶼部に限られています(※ただし都心部では、野草園などからの逸出品や自生地から移植された個体を見ることがあります。)。
本種は、よく似たコセンダングサと比べて小葉の枚数がより多くなり、縁の鋸歯はやや粗くて不揃いとなる傾向があります。ただし、黄色い舌状花を持つ点以外は、全体的にコセンダングサと非常によく似ているため、開花期に花を見た上で同定するのが最も確実といえそうです。 

センダングサの全形。かなり大きくなるセンダングサの全形。草体はかなり大きくなる

センダングサの頭花。黄色い舌状花が際立つ

センダングサの葉。鋸歯はやや粗く、重鋸歯も混じるセンダングサの葉。鋸歯はやや荒く、重鋸歯も混じる

 

★センダングサを図鑑jpで確認

 

一方のコバノセンダングサは南アジア原産の外来種です。道端の植え込みや畑地などで時折見かけることがありますが、その分布は局所的です。センダングサよりもずっと繊細な外見で、23回羽状複葉となる葉には深い切れ込みがあります。この独特な葉形を見れば、他の類似種とは容易に区別が可能ですが、むしろ別属のブタクサやキバナコスモスとよく似ているのでご注意下さい。

コバノセンダングサの全形。草丈は他種と変わらないが、繊細な印象であるコバノセンダングサの全形。他種と比べて繊細な印象である

コバノセンダングサの花。頭花の直径は小さく、黄色の舌状花がある

コバノセンダングサの葉。深い切れ込みがあるコバノセンダングサの葉。深い切れ込みがある

ブタクサの葉。コバノセンダングサとよく似るブタクサ。葉はコバノセンダングサとよく似る

★コバノセンダングサを図鑑jpで確認

★ブタクサを図鑑jpで確認

 

奥深いセンダングサの世界

以上の他にも、コスモスさながらの大きな黄色い舌状花が特徴のキンバイタウコギやキクザキセンダングサ(=ウィンターコスモス)、細長い複葉を持つホソバノセンダングサやオワリセンダングサなどが知られています。このコラムでは詳しく紹介しませんが、こうした見慣れない種類と出会った時にこそ、身近なセンダングサ類をしっかり認識しておくことで、すぐにそれらとの相違点を洗い出すことができ、同定のための手がかりが増えるに違いありません。 

また今回は、花と葉に着目したために、開花後の形態については触れませんでしたが、この仲間は果実が実にユニークな形をしています。基本的な構造は、棒状あるいは扁平な硬い果実の先端に数本の刺状突起があり、そこに逆刺が付いているというものです。この巧妙な仕掛けによって、果実が衣服や動物の体毛に引っかかり、いわゆる“ひっつき虫”として広範囲に種子を散布していくのです。果実の細かいつくりは種類によって微妙に異なるため、こちらもぜひ比較観察を楽しんでみてはいかがでしょうか。

最後になりますが、種類を見分けて楽しむことだけがセンダングサとの付き合い方ではありません。この仲間について文化的な側面から調べてみると、民間薬や草木染めの染料など、様々な場面で活用されていることが分かります。一方で、場所によっては植生や生態系に影響を及ぼす侵略的外来種、あるいは田畑の強害雑草として駆除の対象にもなっています。私たちの暮らしと密接に関わる身近な雑草の代表格として、その価値や問題について改めて考えてみるのも良いかもしれません。

 

コセンダングサの果実。ひっつき虫の代表格として親しまれている
コセンダングサの果実。ひっつき虫の代表格として親しまれている

 

 

 花と葉による簡易検索表(付録1

 1.舌状花が無いかほとんど目立たない

 2.総苞片は小さい ⇒ コセンダングサ

 2.総苞片は葉状で大きい

  3.葉は単葉 ⇒ タウコギ

  3.葉は羽状複葉 ⇒ アメリカセンダングサ

1.舌状花がある

 2.舌状花は白色

  3.舌状花はごく小さくてまばら ⇒ アイノコセンダングサ

  3.舌状花は1cm以内で目立つ ⇒ コシロノセンダングサ

  3.舌状花は大きく頭花の直径が3cm以上 ⇒ (オオバナノセンダングサハイシロノセンダングサ

 2.舌状花は黄色

  3.葉は12回羽状複葉 ⇒ センダングサ

  3.葉は23回羽状複葉で深く切れ込む ⇒ コバノセンダングサ

 

花と葉による形態比較表(付録2

和名

舌状花

総苞片

備考

コセンダングサ

なし

小さい

12回羽状複葉・短毛あり

全国で最も普通(外来種)

タウコギ

なし

大きい

単葉・切れ込みあり・葉柄に翼あり

水田や休耕田にやや稀(在来種)

アメリカセンダングサ

目立たない

大きい

1回羽状複葉・シャープ・無毛

湿った環境を好む(外来種)

アイノコセンダングサ

白色・まばら

小さい

12回羽状複葉・短毛あり

コセンダングサ×コシロノセンダングサ

コシロノセンダングサ

白色

小さい

12回羽状複葉・短毛あり

舌状花は1cm以内(外来種)

センダングサ

黄色

小さい

12回羽状複葉・小葉多い傾向

関東地方以西に分布(在来種)

コバノセンダングサ

黄色

小さい

23回羽状複葉・深く切れ込む

植え込みや畑地にやや稀(外来種)

 

センダングサ属(Bidens)の主要学名一覧表(付録3

コセンダングサ Bidens pilosa var. pilosa

タウコギ Bidens tripartita

アメリカセンダングサ Bidens frondosa

アイノコセンダングサ Bidens pilosa var. intermedia

コシロノセンダングサ Bidens pilosa var. minor

センダングサ Bidens biternata

コバノセンダングサ Bidens bipinnata

ハイシロノセンダングサ Bidens pilosa var. radiata f. decumbens

オオバナノセンダングサ Bidens pilosa var. radiata

キンバイタウコギ Bidens aurea

キクザキセンダングサ Bidens laevis

ホソバノセンダングサ Bidens parviflora

オワリセンダングサ Bidens subalternans

 

 

小林健人(こばやし・たけと)

八王子市長池公園副園長。1987年神奈川県生まれ。多摩丘陵周辺の植物相解明をライフワークとしており、フィールドで過ごす時間は年間300日を超える。『新八王子市史』で執筆を担当したシダの仲間と外来植物が特に好き。

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