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今年こそ見分けたい!身近な植物識別講座

第5回 ニシキギの仲間

2018-11-16

この連載では、掲示板でもお馴染みの小林健人先生(長池公園 副園長)が、ご自身の経験を交えながら、その季節によく見られる身近な植物の見分け方を教えてくださいます。

第5回目は"ニシキギの仲間"です。 


果実と紅葉の共演

秋の草花もピークを過ぎてわずかに残るのみとなり、代わって、赤や黄色と、鮮やかに色付いた木々の葉に目を奪われます。いよいよ本格的な紅葉シーズンの到来です。紅葉といえば、真っ先にカエデの仲間を思い浮かべてしまいますが、実際に里山を歩いていると、想像以上に多くの樹木が色付いていることに気が付きます。ニシキギという樹木をご存じでしょうか?枝にコルク質のヒレがある、このとてもユニークな低木は、秋になると、葉がまるで燃えるような赤色に染まります。その美しさたるや、紅葉する樹木の中でもトップクラスと言っても過言ではなく、和名の「錦木」もその情景が由来となっています。また、ニシキギのもう一つの見どころは、紅葉と同じ時期に可愛らしい果実が実ることです。一本の木で果実も紅葉も楽しめる、これほど贅沢なことは無いでしょう。

枝のヒレがユニークなニシキギ枝のヒレがユニークなニシキギ

ニシキギ科植物は実も葉も同時に楽しめる(ニシキギ)ニシキギ科植物は実も葉も同時に楽しめる(ニシキギ) 

さて、ここで樹木の図鑑を開いてみると、ニシキギはニシキギ科という科に所属していることがわかります。ニシキギ科のページには、ニシキギの他に、マユミやマサキなど、似たような実の樹木が並んでいます。多くの種類は秋~初冬にかけて実が熟し、実は二つの異なる色の組み合わせからできています。固い果皮(かひ)が複数に裂けて、中から果皮とは異なる色をしたゼリー状の仮種皮(かしゅひ)に包まれた種子が姿を現すため、二色の構造になるのです。これは「二色効果」と呼ばれ、種子の運び屋となる鳥たちに、実の成熟、つまり食べ頃であることを知らせる信号のような役割があるといわれています。今回は、そんなニシキギ科植物の巧みな知恵ともいえる“実”に注目しつつ、“葉”の形態も併せて観察することで、簡単&確実な種の識別にトライしてみましょう。

ニシキギ科を代表するマユミニシキギ科を代表するマユミ

ニシキギ科の特徴は二色の実(ツルマサキ)ニシキギ科の特徴は二色の実(ツルマサキ)

 

落葉性・対生の葉を持つ3種

ニシキギ科の樹木は大きく分けて、冬になると葉が落ちる落葉性の種類と、厚みと光沢のある葉が一年中見られる常緑性の種類があります。実の時期に、葉が紅葉していたり、枯れ始めていたりすれば、落葉性であることが推測できますし、厳冬期になっても元気に葉を茂らせていれば、常緑性の種類だと思って間違いありません。判断しにくいのは、緑色の葉しか見られない場合です。そんな時は、触った感触を確かめてみましょう。落葉性と常緑性の区別には、やはり葉の手ざわりを確かめるのが一番です。

落葉性の種類で、里山などの身近な環境で見られる主なものは、ニシキギ、マユミ、ツリバナの3種。それぞれの特徴を順番に見ていきましょう。まずはニシキギです。本種の果実は、一見すると何が何だかわからない、面白い形状をしています。上側の棒状の部分は裂けた果皮で、その下にぶらさがっている赤色のかたまりが仮種皮に包まれた種子です。本種は、一つの柄から2つの果実(分果)を作ることが多く、それぞれの分果において、果皮が2つに裂開し、中から1つの種子が現れることで、このような状態になります。裂開後の果皮が真横から見ると棒状に見えるのは、すぐに乾いて丸まってしまうためです。対生する葉は、ニシキギ科の植物ではもっとも小さく、一枚の葉は親指と人差し指を合わせて作った輪っかの中にすっぽりと収まるくらいのサイズしかありません。冒頭に書いたとおり、ニシキギの最大の特徴は枝にコルク質のヒレがあることですが、野山ではヒレの無いタイプ=コマユミをよく見かけます。ヒレが無いこと以外はニシキギと全く変わらないため、ニシキギの品種として位置付けられています。

ニシキギ実1ニシキギの実

ニシキギ実2ニシキギの実

ニシキギ葉ニシキギの葉

 

コマユミ実コマユミの実

コマユミ葉コマユミの葉

人の背丈ほどの高さが標準のニシキギとは対照的に、樹高3~10mにもなる大型の種がマユミです。桃色の果実がたくさん実る様は、遠くから見ると、まるで季節外れの花が満開になったかのようです。果実は、果皮が4つに裂開し、半開きの恰好で隙間から赤い仮種皮に包まれた種子が顔を出しています。対生する葉は他種よりも柄が長く、葉身も桜の葉と同じくらいあり、ニシキギ科の中では特に大きいほうです。なお、やや山寄りの環境には、葉裏の脈状に短毛が密生する点を特徴とするマユミの変種、カントウマユミ(ユモトマユミ)が生育しています。山歩き中にマユミと出会った際には、ぜひ葉の裏側にも着目してみて下さい。

マユミ実1マユミの実

マユミ実2マユミの実

マユミ実3マユミの実

 

マユミ葉1マユミの葉

マユミ葉2マユミの葉

葉裏の脈状に短毛が密生する変種カントウマユミ葉裏の脈状に短毛が密生する変種カントウマユミ

残る一種は、果実を長い柄の先に吊る下げた姿が可愛らしいツリバナです。果実は赤い果皮が5つに裂開し、その先端に赤い仮種皮に包まれた種子がぶら下がっています。裂開後の果皮は、ヘルメットのような、おかっぱ頭のような、何とも言えない恰好です。葉はニシキギとマユミのちょうど中間くらいの大きさで、先端が次第にすぼまって長くとがっています。葉の大きさや形からの区別は少し難しく感じるかもしれませんが、枝先や葉の脇に付く芽の形にご注目下さい。面相筆の先端のように、細長く尖っています。区別に迷う時には、芽の形を見て判断すると良いでしょう。今回は割愛しますが、山地には、サワダツ、オオツリバナ、ヒロハツリバナといったツリバナに近縁の希少種が生育しています。基本となるツリバナをしっかり覚えて、希少種との出会いに備えたいですね。

ツリバナ実1ツリバナの実

ツリバナ葉1ツリバナの葉

ツリバナ葉2ツリバナの葉

 

常緑性・対生の葉を持つ2種

 常緑性の種類には、マサキ、ツルマサキ、コクテンギ、モクレイシなどがあります。ここでは全国に広く分布する前二種をご紹介します。マサキは、沿海地に多く自生する低木ですが、生垣や庭木としてあちこちに植栽されているため、内陸部でも見る機会は少なくありません。果実は、果皮が4つに裂開し、そこからぶら下がる仮種皮の色は他種とほぼ同じ赤色です。果皮が4裂開する点はマユミと一緒ですが、果皮が倒三角形で稜のあるマユミに対し、本種は球形なので、見た目の印象がだいぶ異なります。葉は対生し、楕円形でやや丸みがあります。

マサキ実マサキの実

マサキ葉マサキの葉

地域を問わず、各地の山野で普通に見られるツルマサキは、花・葉・果実ともにマサキとよく似た種類です。果皮が4つに裂開し、球形であることも共通しています。名前のとおり、つる性であることが最大の違いで、他の樹木などに気根を出して這い上がって成長する様子から見分けることができます。むしろ気を付けなければならないのは、全く別の科(キョウチクトウ科)に所属するテイカカズラとの区別です。特に樹林内を這いまわっている本種の幼木とテイカカズラは瓜二つで、まさに他人の空似と言えます。両者は、葉の付いた枝の色形(ツルマサキ=緑色で太い:テイカカズラ=黒褐色で細い)や葉の縁の様子(ツルマサキ=鈍い鋸歯がある:テイカカズラ=鋸歯が無い)などを落ち着いて確認すれば見間違うことはありません。薄暗い樹林内では、日照不足で大きくならずに燻っているツルマサキがたくさん見られますが、その多くは、有り触れたテイカカズラに紛れて見逃されているように感じます。

ツルマサキ実ツルマサキの実

ツルマサキ葉1ツルマサキの葉

ツルマサキ葉2ツルマサキの葉

 

テイカカズラとツルマサキの葉(枝の色や葉の縁の形状が異なる。)テイカカズラ(左)とツルマサキ(右)の葉。枝の色や葉の縁の形状が異なる

 

葉が互生する変わり者・ニシキギ科と間違えやすい樹木

 果実の黄色と赤色の組み合わせが美しいつる性の落葉低木、ツルウメモドキ。ニシキギ科では珍しく、葉が互生する変わり者です。果実は黄色の果皮が3つに裂開し、中から赤色の仮種皮に包まれた種子が現れます。種子どうしは中央に集まって結合しており、大きな一つの種子に見えます。互生する葉の大きさや形は様々で、果実が無ければそれが何の仲間の葉であるかわかりづらい、初心者泣かせの種類でもあります。一方で、葉の形態の違いから、品種イヌツルウメモドキや変種オニツルウメモドキなどの変異が認められており、里山でも時折見つかります。ツルウメモドキの葉を認識できるようになった方は、次のステップとして、葉裏の脈上の様子(※毛が生えているか、隆起があるか)など、細部までよく観察し、先の品種や変種を探し出すのも楽しいでしょう。

ツルウメモドキ実ツルウメモドキの実

ツルウメモドキ葉1ツルウメモドキの葉

ツルウメモドキ葉2ツルウメモドキの葉

 

最後に、果実が「二色効果」の性質を持つことから、一見、ニシキギ科と間違えやすい樹木を2つ紹介します。1つはシソ科のクサギです。長い柄のある掌よりも大きな三角形の単葉であること、星形の赤い萼の中央に青い実が付くことなどから見分けられます。もう1つはゴンズイです。奇数羽状複葉の葉が対生すること、種子が黒いことなどから、こちらも見分けは容易でしょう。

クサギ実クサギの実

クサギ葉クサギの葉

 

ゴンズイ実ゴンズイの実

ゴンズイ葉ゴンズイの葉

 

生き物たちを育むニシキギ科植物

ニシキギ科植物を見分けられるようになったら、次にお勧めしたいのは、それらの木々にやってくる生き物の観察です。ニシキギ科の樹木は、その葉や果実を多くの生き物が、大事な冬の食糧として利用しています。ニシキギの葉上でよく見られるキバラヘリカメムシや、マユミの果実が熟すと盛んについばみにやってくるコゲラなどの小鳥はその一例です。小鳥たちは、甘い仮種皮の部分を目当てにやってきますが、マユミにとっては、こうして食べられることで、より遠くに種子を運んでもらえる重要な存在となっています。また、それとは逆に、ニシキギ科植物の大敵となる害虫もいます。一見すると可愛らしい蛾の仲間、ミノウスバは、マユミなどの枝に大量の卵を産み付け、幼虫が葉をもりもりと食べて育ちます。葉を食べ尽くされた木は、実りにも影響があるようで、ミノウスバの食害によって元気の無い姿になった樹木をよく見かけます。このように、ニシキギ科の樹木と生き物たちの関係を見ていると、その地域に成り立っているダイナミックな生態系が浮かび上がってきます。まさにこの瞬間から、植物観察の幅がいっそう広がるに違いありません。

ニシキギに止まるキバラヘリカメムシ成虫ニシキギに止まるキバラヘリカメムシ成虫

マユミの実をついばみに来たコゲラマユミの実をついばみに来たコゲラ

 

ミノウスバ成虫ミノウスバ成虫

マユミの枝先にに産卵するミノウスバ成虫マユミの枝先に産卵するミノウスバ成虫

マユミの葉を食べるミノウスバ幼虫マユミの葉を食べるミノウスバ幼虫

 

花と葉による簡易検索表(付録1

 1.葉は対生で落葉する

 2.果皮2裂、分果を作る 

 ⇒ ニシキギ(枝にヒレなし → 品種コマユミ

 2.果皮4裂 

 ⇒ マユミ(葉裏脈状に短毛密生 → 変種カントウマユミ) 

 2.果皮5裂 

 ⇒ ツリバナ

1.葉は対生で落葉しない

 2.果皮4裂 

 ⇒ マサキ

 2.果皮4裂、つるになる

 ⇒ ツルマサキ

1.葉は互生で落葉する

 2.果皮3裂、つるになる

 ⇒ ツルウメモドキ

  (葉裏脈上に短毛密生 → 品種イヌツルウメモドキ

  (葉裏脈上に隆起と突起毛あり → 変種オニツルウメモドキ

1. その他

 2.実は赤と黒、奇数羽状複葉 

 ⇒ ゴンズイ

 2.実は青、星形の萼片が目立つ、掌より大きな三角形の葉 

 ⇒ クサギ

 

ニシキギの仲間の主要学名一覧表(付録2)

ニシキギ Euonymus alatus

コマユミ Euonymus alatus f. striatus

マユミ Euonymus hamiltonianus subsp. sieboldianus

カントウマユミ(ユモトマユミ) Euonymus hamiltonianus subsp. sieboldianus var. sanguineus

ツリバナ Euonymus oxyphyllus

マサキ Euonymus japonicus

ツルマサキ Euonymus fortunei

ツルウメモドキ Celastrus orbiculatus

イヌツルウメモドキ Celastrus orbiculatus f. papillosus

オニツルウメモドキ Celastrus orbiculatus f. strigillosus

 

 

 

小林健人(こばやし・たけと)

八王子市長池公園副園長。1987年神奈川県生まれ。多摩丘陵周辺の植物相解明をライフワークとしており、フィールドで過ごす時間は年間300日を超える。『新八王子市史』で執筆を担当したシダの仲間と外来植物が特に好き。

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