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わたしのスミレ分類 ~スミレの属内分類と日本のスミレ 類 早見表について

2018-04-06

いがりまさしさんに、今回の早見表についてご寄稿いただきました。(図鑑jp事務局)

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スミレの「類」とは?

拙著『山溪ハンディ図鑑 増補改訂 日本のスミレ』では、いくつかの種をまとめて「類」というカテゴリーを作っている。実は、これは分類学上の正式な用語ではない。属と、種の間に置くとしたら、「亜属Subgenus」「節Sect.」「亜節Subsect.」である。

これは、実は、現在までの日本のスミレの分類にもっとも大きな影響をもっているといってもまちがいない、橋本保博士の『日本のスミレ』(1967年)を踏襲している。

あらためて、この本を精読してみたが、どうして「類」という言葉を使ったかは、この本の中では明らかにされていない。

私なりの理解では、この本を著した橋本先生はまだ30代。ご自分なりの体系をのちのち発表するため、仮の分類として「類」という言葉で、いくつかの種をとりまとめて置かれたのだという気がする。

結局、橋本先生はその後、まとまったスミレの仕事を発表されないまま、逝去されてしまったが、生前にこのことを聞いておかなかったのが悔やまれる。

拙著で「類」を採用したのは、正直なところ属内分類に自信がなく、橋本先生の分類に従っておけば間違いないだろうと考えたからだ。「節」や「亜属」など正式な分類学上の用語を使えるだけの知識がなかった。

21世紀になって、DNAレベルの研究が進み、属内分類についてもますます流動的になってきた。日本のスミレの属内分類も定説らしきものはないといっていい。

Flora of Chinaでは、パンジー類、キスミレ類とキバナノコマノツメ類をのぞき、すべて一括してスミレ亜属とされ、それ以下の分類は種に至るまでない。タチツボスミレもアケボノスミレもコスミレもすべて同じ、スミレ亜属なのである。

現代では属内レベルの研究は、DNAレベルの研究が必須だが、まだ途上だといっていい。私のところにも、世界的視野でスミレ科植物を研究している海外の学者から、DNAのためにのサンプルや日本のスミレの信頼できるリストがほしいと依頼が来ることもある。これは彼らの発表を待つとして、それとは別にスミレを見分けるためには、仮でもよいから大きなグループ分けがほしい。その理解、認識のためのグループ分けが「類」だととらえていただきたい。

 

「類」把握への道

さて、その類をどうやって把握認識するのかという問題だが、なかなか難しい。たくさんのスミレを見慣れてくると、自然にグループ分けできるようになる。私の場合は『原色日本のスミレ』(浜栄助著)を毎日のように総めくりしていた時代に、自然と身についていた。

実際に、野外で遠くからスミレを見て、どういう見方をしているかということを、あらためて自己分析してみると、必ずしも検索表に沿っているわけではない。柱頭や托葉のつき方など、分類上は大きな分岐点になっている要素は、最後の最後、迷った時に確かめる程度で、多くは「雰囲気」のようなもので絞り込む。

たとえば、葉柄や花柄のつけねが地下にあり、葉や花がそれぞれ地中から生えているような咲き方をするのはスミレサイシン類だ。実際にはこの要素はとても重要なポイントになるのだが、一方で例外も多い。斜面で土砂が流れてしまって根が露出しかけていることもあれば、スミレサイシン類でなくても落ち葉が積もっていて、そのように見えてしまうこともある。

そういった不確かな要素を検索表に入れこむと、まったく使えないものになってしまう。そこで、托葉のつき方や柱頭の形ということになってくるのだが、標本を目の前にして調べるのならともかく、生きた植物を採集せずにこの点を確かめることは、少なくとも初心者にとってそうとう難しい。

スミレ以外の分野の検索表でも、セリ科の果実の油管、ネコノメソウの種子の表面の突起など、観察困難な検索表のキーに出会って、同定がとん挫することは枚挙にいとまがない。

むろん、分類の考え方としてはこの検索表は重要で、専門的に植物を研究する人には真摯に取り組んでもらいたいが、生きたままなるべく直感的にスミレのグループを把握できるキーを重視して、今回「日本のスミレ"類"早見表」を作ってみた。

 

日本のスミレ""早見表

当初は、検索表でと思ったが、検索表に使えるような例外の少ないキーを絞りこんでいくと、結局従来のものと大差なくなってしまうか、かえって煩雑極まりないものになってしまう。そこで、自分が遠くからスミレを見つけて絞り込んでいくような感じで、花の色や咲き方から入り、最後に柱頭や托葉で確認するといったあつらえにしてある。

スミレが難しいという人は、たいてい生真面目に植物に取り組んでいる人だ。検索キーになるような形質にも例外がたびたびあるのがスミレ属だ。たとえば、本来淡紫色花だが白花品種があるといったように。結果、各形質を生真面目に調べるより、直感的な判断が当たることも多い。

少々の例外があっても、総合的に判断できるところが、一覧表の優れたところであり、ゆるいところでもある。そんなことを想定して、あくまで総合判断の材料として使ってみていただきたい。

 

スミレ 類 早見表

●紹介ページ
「類」がわかればもっとスミレが識別できる!日本のスミレ 類 早見表
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いがり・まさし

1960年豊橋市生まれ。関西学院大学文学部美学科中退。前後して、自転車で「日本一周笛吹行脚」。その後、リコーダーを神谷徹氏に師事。25歳の時、冨成忠夫氏の作品に出会い植物写真を志す。印刷会社のカメラマンを経て、1991年独立。写真家、植物研究家として、幅広いメディアに出稿活動を展開。2009年ごろより音楽活動を再開。自然と伝承音楽をお手本に、映像と音楽で紡ぐ自然からのメッセージを伝える活動を全国で展開中。図鑑.jpでは『山溪ハンディ図鑑 増補改訂日本のスミレ』『山溪ハンディ図鑑 日本の野菊』が掲載中。

撮れたてドットコム http://www.plantsindex.com/

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