タカの渡りキャンペーン
新しいハチクマの標識調査について樋口先生に聞いてみました。
先日公開した樋口広芳先生の特別コラム「ハチクマの渡りを追跡する」のなかで、衛星追跡調査に続く新しいプロジェクトとして「ハチクマプロジェクト2(仮称)」の準備段階の実験が始まっているとのお話しがありました。
超ハイテクの衛星調査の次がアナログの標識調査って、ちょっとおもしろいですよね? カラーリングやフラッグの標識調査のように、バードウォッチャーが自分の目でその個体を認識できるということですね。しかも、うまくいけば、それらよりずっと見やすいかもしれません。ネットで衛星データを見るのとはまったく違う喜びがあるように感じます。もうちょっと詳しく知りたいので、樋口先生にお話しを聞いてみました。
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今回の調査の目的について
(事務局)衛星での追跡でかなりの程度までハチクマの渡りルートが解明されたと思うのですが、今回の調査の目的を改めて教えてください。
(樋口先生)今回は、近い将来実施予定の本格プロジェクト稼働に向けての準
(事務局)まずは予備的な実証実験ということなんですね。
羽の脱色について
(事務局)軸足が科学的な事実の解明から保全にかかわる普及啓発活動に移ってきて、機材の提供なども視野に入っているんですね。さて、改めて個体に対する脱色の影響をお教え下さい。
(樋口先生)標識の時点では、この脱色によって羽毛が傷むことはなく、しなやかな状態が維持されることを確かめています。つまり、鳥の飛行や保温などが妨げられることはないと思われました。しかし、短時間での判断ですので、放鳥後の状況は今後の課題です。
(事務局)脱色の方法はどのようなものでしょうか?
(樋口先生)脱色の仕方については、現時点では公表できません。研究の途上であり、今回まさに標識の有効性と個体への影響を探ることになります。
(事務局)そもそもハチクマの羽の模様は個体差が著しいわけですが、脱色のパターンでの識別は容易にできるものですか?
(樋口先生)それを確かめるのが、今回の試みの目的の一つです。数mの近距離では識別が可能でしたが、上空を移動して行く個体、一部換羽をしている個体をどのくらいの精度で識別できるのかが課題です。
今後の調査拡大について
(事務局)今回はハチクマが対象とのことですが、同様の標識調査を拡大して他の種類を増やす計画はありますか?
(樋口先生)それは今後の結果次第です。鳥の種によって条件や状況は異なるので、それらを検討したうえで実現の可能性を判断していきます。ハチクマについても、今回の試行などによって有効性が疑われる場合には、本格実施は先送りになります。
(事務局)ありがとうございました。科学的な調査から、普及啓発活動にシフトし、アジア各国の人と人をつなぐものとして機能する調査と言うことですね。衛星調査とはまた違った魅力がありますね。実験がうまくいくといいですね。
樋口広芳(ひぐち ひろよし)
鳥類学者。東京大学名誉教授。主な編・著書に『日本のタカ学』(東京大学出版会)、『日本の鳥の世界』(平凡社)、『ヤマケイ新書 鳥ってすごい!』(山と溪谷社)など多数。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」では野鳥考証を担当。