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アザミ学事始め

第8回 オニアザミ群追記その2 ─奥只見のオニアザミ

2018-07-12

 「アザミ学事始 その7」では能登半島の固有種、調査中のノトオニアザミを取り上げた。夏のアザミ、現在オニアザミ群の種は各地で花を咲かせている。
その調査は引き続き行われている。最近になって、新潟県奥只見でたいへん興味深いオニアザミが見つかったので、ここではこのオニアザミを速報的に紹介したい。現在研究中であり、また分布域も狭いため、保護の目的からも産地を特定せず、以下、「奥只見のオニアザミ」と呼ぶことにする。2018年の調査では花はほとんど終わっていて、開花個体はわずかに見られる程度であった。したがって、2019年の再調査が必要である。

 


タイプ2

①花期に根生葉が生存。
②大型の頭花を下向きに咲かせる。

代表種=オニアザミなど

 

 

奥只見のオニアザミは蛇紋岩植物

オニアザミは基準産地を福島県とし、山形県、宮城県から栃木県を経由して、長野県、新潟県にかけて、オニアザミ群としては比較的広い範囲に分布している。ここで問題にする「奥只見」はこのオニアザミの分布域に含まれている。

 

1は奥只見のオニアザミの生育地である。上述のように花は既に終わっているが、灰緑色の葉がよく目立つ。この草地は標高800mほどで、蛇紋岩土壌の上に成立している。

 


図1 奥只見のアザミの生育地(蛇紋岩地)。蛇紋岩地では森林は成立せず、このような日当たりの良い草地となることが多い。

 

蛇紋岩地には有害なニッケルやマグネシウムが過剰に含まれ、一般的な植物にとっては生育に不適な環境である。逆に、植物が一旦このような環境に適応すると、他の植物との競争において有利に働く。このように、蛇紋岩地の環境に適応した植物を蛇紋岩植物と呼ぶ。蛇紋岩植物には、この地に生き残った植物(遺存固有の植物)とそこで新しく生まれた植物(新固有の植物)がある。奥只見からそう遠くない至仏山が蛇紋岩の山で、遺存固有としてはオゼソウ(サクライソウ科)、新固有と考えられるものはクモイイカリソウ(メギ科)がある。蛇紋岩地に侵入すると外部形態を変える、蛇紋岩変形植物と呼ばれているものが新固有の植物と考えられる。奥只見のオニアザミの場合は、近縁なオニアザミそのものが非蛇紋岩地に生育しているので、蛇紋岩変形植物とみなすのが妥当だろう。

 

厚いビロードのような葉

蛇紋岩変形植物では、近縁な植物と比較して、葉が厚くなったり、細くなったりすることが知られている。それでは、奥只見のアザミの場合はどうだろうか? 図24に示したように、葉は肉厚で、両面に綿毛が密生して灰緑色になることが明瞭な特徴である。写真では質感までは分かり難いが、質は厚いものの柔らかく、ビロードのような質感である(図3)。このような特徴は他のオニアザミには見られない、非常にはっきりしたものである。

 


図2 高さは1mほど。既に花は終わっているが、灰緑色の葉が印象的だ。この個体では茎葉は羽状に中裂しているが、鋸歯縁となるものもある。


図3 茎葉の下面。綿毛が密生し、葉は灰緑色となる。オニアザミ群のアザミではこのような灰緑色の葉をもつものは他にはない。

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