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アザミ学事始め

第11回 最近の野外調査の結果から ~愛知県知多半島と神奈川県相模原市

2018-11-22

門田裕一=文

 

2018年10月から11月にかけて中部日本のいくつかの地点でアザミ属の野外調査を行った。そのうち、愛知県知多半島と神奈川県相模原の二つを選び、ここにその結果をメモとして残しておきたい。調査対象の保護のために、地名は市町村のレベルに留めることとしたい。

 

里山のアザミ

2018年も暮れが近づきつつあり、今年のアザミの季節も終わろうとしている。北日本では霜が降りたところも多く、降雪をみたところもある。しかし、南日本では12月に入っても開花が続き、年を越して2月頃まで花を見ることがある。南西諸島のシマアザミやイリオモテアザミは年中花を見ることができることは以前触れた。

小見出しを「里山のアザミ」としたが、それは、アザミが日本全国でありふれた存在でありながら、種類は地域ごとに移り変わっていくことを示すためである。ここでいう「里山」とは、市街地を取り巻く野山を指す。

北から順番にアザミの種類を見てみると、北海道は道北のソウヤアザミ(未発表)、道東のシコタンアザミ(アッケシアザミ)、道央のコバナアザミ(チシマアザミは高山生)、道南〜青森県のミネアザミとなる。青森県以南の本州では、日本海側地域に、ナンブアザミ、ジャクエツアザミ(未発表)、イズモアザミ(トゲナシアザミ)、チョウシュウアザミ(未発表)、太平洋側地域に、キタカミアザミ、マツシマアザミ、タイアザミ、スズカアザミ、ヨシノアザミなどがある。

四国ではかつてシコクアザミとして区別されたこともあるヨシノアザミが一般的で、四国山地の石灰岩地域にニセツクシアザミがある。九州本土では、熊本県と鹿児島県の県境に位置する紫尾山と宮崎県小林市を結ぶ線以北にツクシアザミ、宮崎県と隣接する鹿児島県の一部にヒュウガアザミ、鹿児島県のほぼ全域にノマアザミが分布する。南西諸島と小笠原諸島については既に述べた。

 

図1 里山のアザミ。日本全国でアザミは普通に見られるが、種類は地域毎に異なっている。黄色で大きなフォントで示したものは各地で代表的な種類。白色で小さなフォントで示したものはそれより分布域が狭いもの。 (ベースの地図はCraftMAPを利用しました)

 

愛知県の里山に咲くスズカアザミ

愛知県の里山のアザミはスズカアザミである。北海道〜九州の里山のアザミは四倍体種で頭花が下向きに点頭して咲くものが多いが、スズカアザミは二倍体種で頭花が直立する。スズカアザミは花期に根生葉がなく、茎葉は質が硬くて羽状に深く切れ込み、頭花が直立して咲くので(図2)、アザミ属でも比較的同定が容易である。

スズカアザミは静岡県から滋賀県、三重県、奈良県と和歌山県の一部にかけての地域に分布し、夏緑林の縁などやや乾燥したところに生えることが多い。分布域はこの地域の太平洋側地域に偏るが、静岡県や岐阜県、長野県では内陸部にも進出している。スズカアザミの分布域はこのように比較的狭い地域に限定されるが、この地域では極めて普通のアザミである。そして、普通にあるアザミであるからこそ、逆に形態的形質の変異の幅が広く、なかなか実体をつかみにくい。

 

 

図2 スズカアザミ。全体に痩せた感じで、頭花は上向きに咲く。長野県南木曽町。

 

 

図3 スズカアザミ Cirsium suzukaense Kitam.のタイプ標本。鈴鹿峠産。京都大学総合博物館蔵。

 

図3はスズカアザミのタイプ標本画像である。右下のラベルに、命名者である北村四郎博士の手記で、「Cirsium suzukaense Kitamura, sp. nov. スズカアザミ Prov. Omi: Suzukatoge, 17 IX 1931, S. Kitamura」とある。つまり、この標本は北村博士自身が1931917日に、滋賀県鈴鹿峠で採集したものである。したがって、鈴鹿峠が基準産地となる。

 

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