Close modal
無料トライアル

永田芳男さんの日本全国花行脚

第2回 南西諸島に咲く野生のテッポウユリ

2023-05-16

『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』や『レッドデータプランツ』などでおなじみの植物写真家の永田芳男さん。髭がトレードマークで髭さんと呼ばれていましたが、いまでは髭も真っ白くなりました。三つ子の魂百までで、いまだに植物を追いかけて日本全国花行脚を続けています。旅先で出会った野生の草や木を主体に、時に花の名所なども兼ねて、永田さんが気になった植物をひとつずつ紹介していただきます。

 

テッポウユリは花屋で売られていたり、花壇などでお馴染みの花なので園芸種と思っている人が多いようだが、日本の自然の中に自生する立派な野生種である。分布は鹿児島県の種子島以南である。鉄砲伝来の地として知られる種子島だが、ここで初めて自生のテッポウユリを撮影したのは1989年5月26日のことである。その写真は拙著『山溪フィールドブックス春の野草』に載せてある。34年も前の事だ。

 

 

生えている量が多いのは圧倒的に南西諸島である。特に上の写真を撮影した与那国島では、こんなに生えているの!? と思うほど空港周辺からワサワサ生えている。海辺の隆起サンゴ礁の中などに多いのだが、常に海から吹き付ける風のために、自生のテッポウユリは随分と草丈が低い。少し内陸寄りに生えたものや藪陰に生えたものはやや草丈が高くなるが、花屋で売っているようなスマートさはない。

 

 

花には良い香りがあるが、園芸用に品種改良されたものでは、誠に好ましい芳香だが、野生のテッポウユリは長い時間匂いを嗅いでいると、つまり花瓶に挿して飾って置いたりすると、頭が痛くなるような悪臭がある。

日本原産のこのユリは、ヨーロッパでは特に人気があり、イースター(復活祭)にはなくてはならない花となっている。聖母マリアと真っ白なテッポウユリがうまく合致したためらしい。今人気があるカサブランカなども、元は日本のヤマユリを元に作出されたものである。古い時代から日本の百合類はもてはやされているように、日本は百合王国なのである。

毎年のように石垣島を訪れるのだが、下の写真は2023年5月1日に撮影した。御神崎(うがんざき)と言う場所で、今は夕日の絶景ポイントになっているが、かつてはテッポウユリの大群生地として知られていた。

 

うがんんざ木のヒルザキツキミソウ

 

今年も期待して訪れたのだが、テッポウユリが真っ白く群生していた灯台下は、ヒルザキツキミソウが大群生していて度肝を抜かれ、いささか厭きれてしまった。人が多く訪れると自然も変容する。遷移が進んだのか、かつての野生のテッポウユリの大群落は幻となってしまった。

 

 

永田芳男(ながた・よしお)

1947年生まれ。植物写真家。おもな著書に『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』『増補改訂新版 絶滅危惧植物図鑑レッドデータプランツ』(いずれも山と溪谷社)など多数。



【図鑑.jpのテッポウユリのプレビューページ】

https://i-zukan.jp/category/syu?category_id=2615

★プレビューページは無料です。初めての方は2週間の無料体験が可能です。

 

永田芳男さんの日本全国花行脚

最新コラム