Close modal
無料トライアル

永田芳男さんの日本全国花行脚

第15回 牧野富太郎が名づけたビャッコイ ~福島県白河市~

2023-09-26

『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』や『レッドデータプランツ』などでおなじみの植物写真家の永田芳男さん。髭がトレードマークで髭さんと呼ばれていましたが、いまでは髭も真っ白くなりました。三つ子の魂百までで、いまだに植物を追いかけて日本全国花行脚を続けています。旅先で出会った野生の草や木を主体に、時に花の名所なども兼ねて、永田さんが気になった植物をひとつずつ紹介していただきます。

 

ビャッコイは、日本ではただ1箇所、福島県白河市金山の流水の中だけに生えるカヤツリグサ科の地味な植物である。県の天然記念物には指定されているが、日本ではここだけにしか記録がない珍しい植物なので、国の天然記念物にしたいと、最近動き出したというニュースを聞いて見に行ってきた。

以前から撮影に行こうと準備をしていたので、植物の事や自生地の環境など色々と調べてあったので、それほど戸惑うこともなく自生地に行くことができた。地元のボランティアの方々が草刈りをはじめ、色々と世話をしていてくれるので、その場所は綺麗に手入れがされていた。

 

 

杉林の下の窪地からこんこんと湧き出す清流の中に、ビャッコイはあった。土手の上から見下ろすとその全貌が見える。不思議な事にビャッコイが自生しているのは、この狭い範囲の中だけで、下流の流れの中を探したりもしたが、画像の範囲にしかなかった。

 

 

水草の多くは、切れ藻によって下流などにも見られるものだが、ビャッコイはかたくなにこんこんと清水が湧く、その周辺だけに固執しているかに見えた。

 

 

カヤツリグサ科の花だから、目立つような花は咲かせない事は承知だが、どう眼を凝らしても花らしい姿が見えない。スマホのレンズを最大限に拡大して眺めていたら、やっと花らしいものが1個だけ眼に入った。

 

 

花期は8~9月とされるが、花の状態がよいのは8月いっぱいくらいのようだ。ビャッコイの名付け親は牧野富太郎だが、標本に確たる自生地が記入してなく、会津から送られてきた標本に混じって入っていたために、会津と言えば白虎隊のイメージからビャッコイ(白虎葦)と名づけられたのである。一見変な名前、と思える和名にはこのようないきさつがあったのである。

撮影の許可を貰おうと市役所に連絡して、関係先を教えて貰ったので連絡すると、周りから充分に撮影できますよ、という返事で許可証のようなものは必要ないとのことだったので安心して出掛けたのだが、花のアップを撮影するにはやはり相当近寄らなければ写せないので、今度行く時は申請書を出してすぐ近くから、花のアップを写したいと思っている。

 

撮影は2023年9月10日 福島県白河市ビッコイ自生地で

 

 

永田芳男(ながた・よしお)

1947年生まれ。植物写真家。おもな著書に『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』『増補改訂新版 絶滅危惧植物図鑑レッドデータプランツ』(いずれも山と溪谷社)など多数。

 


【図鑑.jpのビャッコイのプレビューページ】

https://i-zukan.jp/category/syu?category_id=3988

★プレビューページは無料です。初めての方は2週間の無料体験が可能です。

 

関連する種:ビャッコイ

永田芳男さんの日本全国花行脚

最新コラム