永田芳男さんの日本全国花行脚
第13回 分布が狭いチョウセンミネバリ ~富山県有峰湖~
『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』や『レッドデータプランツ』などでおなじみの植物写真家の永田芳男さん。髭がトレードマークで髭さんと呼ばれていましたが、いまでは髭も真っ白くなりました。三つ子の魂百までで、いまだに植物を追いかけて日本全国花行脚を続けています。旅先で出会った野生の草や木を主体に、時に花の名所なども兼ねて、永田さんが気になった植物をひとつずつ紹介していただきます。
富山中央植物園で中部北陸勉強会があった。学者や研究者の集まりで、年1回行われている。各県の博物館の学芸員などが疑問の標本を持ち寄って、比較研究したりなど、私が参加するにはいささかハードルが高いのだが、色々な情報が手に入り研究者の最新のデータや考え方などが聞けるので、良い刺激となっている。
1日目はじっくりと座学。翌日はフィールドに出て、実物を観察しながらの勉強会。今回は立山の有峰湖周辺が舞台だった。
目的の第一がこのチョウセンミネバリだった。元々分布も個体数も少ない樹である。富山、長野、岐阜、群馬などに稀に分布する。生える標高の幅が非常に狭い。シラカバが生える上部、ダケカンバ帯との境目あたりにわずかに生育する。
シラカバやダケカンバのように群生はしない。ぽつん、ぽつんと生えているだけである。画像を見てわかるように、外見はダケカンバにもシラカバにも良くにている。樹皮は白いが古木になるとささくれたように剥がれる。
果鱗の側裂片がわずかに開出するので良くにたダケカンバと区別できるが、果実を分解して見ないと、はっきりとした特徴はわからない。
植物園の担当者が事前に採集許可を取っていてくれたお陰で、標本も取れ、果実を分解して、その特徴をはっきりと知ることができた。難しかったのはダケカンバともシラカバとも容易に交雑する事だった。明らかにシラカバ寄りの葉があったり、ダケカンバ寄りの葉もあった。
チョウセンミネバリは別名をマカンバともナガバノダケカンバともナガバノシラカンバとも呼ばれているように、葉の先端がシュッと伸びて葉がやや大きい。葉裏を見ると葉脈がしっかりと浮き出て白く見えるほど多毛である。
特徴的なのは種子で、果実をばらして見ると、種子にはっきりとした大きな翼が付いている。典型的な風散布の種子である。
果実を見ないことには決定打にならないので、高い樹の枝先に付いている果実を探し、それを長く伸ばした高枝切り鋏で切るのだが、その作業がまた大変で、林道の崖の下から伸びている大木を探し、やっとの思いで目的の枝先を手に入れたのだった。証拠標本は富山中央植物園におさめられている。
撮影は2023年8月27日 富山県の立山で。
永田芳男(ながた・よしお)
1947年生まれ。植物写真家。おもな著書に『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』『増補改訂新版 絶滅危惧植物図鑑レッドデータプランツ』(いずれも山と溪谷社)など多数。
【図鑑.jpのチョウセンミネバリのプレビューページ】
https://i-zukan.jp/category/syu?category_id=6723
★プレビューページは無料です。初めての方は2週間の無料体験が可能です。