永田芳男さんの日本全国花行脚
第6回 30年ぶりの再発見 ~コウベタヌキノショクダイ~
『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』や『レッドデータプランツ』などでおなじみの植物写真家の永田芳男さん。髭がトレードマークで髭さんと呼ばれていましたが、いまでは髭も真っ白くなりました。三つ子の魂百までで、いまだに植物を追いかけて日本全国花行脚を続けています。旅先で出会った野生の草や木を主体に、時に花の名所なども兼ねて、永田さんが気になった植物をひとつずつ紹介していただきます。
コウベタヌキノショクダイは1992年にたった1個体が発見されたのみで、その場所は工業団地として開発されて消滅した。そのため絶滅と判断されていた植物である。それがなんと30年ぶりに再発見されて、2023年の植物界の話題となったのは周知の通りである。
そのコウベタヌキノショクダイの実物を見て、撮影することができた。発見者のY君の好意によるものだが、実物を見たことがある人は、まだ10人もいないだろう。
発見者のY君がオヤッと思ったのはフデリンドウの調査をしているときだったという。杭を地面に差し込んだときに菌従属性植物特有の根らしいものを見つけたのである。それがこの貴重な発見へと繋がった。発見した2021年には19本が確認された。これらの標本を元に神戸大学の末次健司博士が色々と調べて、かなりのことがわかってきたのである。論文は2023年に発表された。
だが踏圧に極めて弱いらしく、翌2022年には1本も発生しなかった。Y君は現在四国の高知県で仕事をしている。約束の日は朝3時に起きて、私との約束の新神戸駅まで来てくれた。色々な話しをしながら自生地へ。2023年は2本だけ発生しているということを事前に知らされていたので、安心して現場に向かった。
小さいとは思っていたが、実物は想像していたよりも小さかった。大きな方で高さが1センチほどだろうか。博物館の人たちや彼の植物仲間数人との合同観察会。これも踏圧を避けるためである。足の置き場1歩1歩に気を使いながら、慎重に撮影した。
実物はもちろんしっかりと見たが、あまりにも小さいので自分が撮影した画像をアップにして、細部を観察した。「妖精のランプ」と言われているのがわかるような姿であった。観察後静かに落ち葉をかぶせて終了。具体的に位置を教えてもらったとしても、1人ではとうてい探せないようなごく限られた狭い範囲に生育していた。
撮影したこの花が開くのか、あるいはこのままなのか、生態的なことはまだ何もわかっていない。今後も彼は四国から定期的に通って色々なことを調べてくれるだろう。日帰りで高知県から兵庫県まで来てくれたY君には心から感謝を申し上げたい。撮影後、兵庫県の里山は滴るような緑に覆われていた。田植えが終わったばかりの水田にはツバメが低く飛んでいた。
ちなみに同属のタヌキノショクダイとは白いこんな花です。
永田芳男(ながた・よしお)
1947年生まれ。植物写真家。おもな著書に『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』『増補改訂新版 絶滅危惧植物図鑑レッドデータプランツ』(いずれも山と溪谷社)など多数。
【図鑑.jpのタヌキノショクダイのプレビューページ】
https://i-zukan.jp/category/syu?category_id=2452
★プレビューページは無料です。初めての方は2週間の無料体験が可能です。