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永田芳男さんの日本全国花行脚

第14回 幻のムツアカバナ ~富山県立山町~

2023-09-19

『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』や『レッドデータプランツ』などでおなじみの植物写真家の永田芳男さん。髭がトレードマークで髭さんと呼ばれていましたが、いまでは髭も真っ白くなりました。三つ子の魂百までで、いまだに植物を追いかけて日本全国花行脚を続けています。旅先で出会った野生の草や木を主体に、時に花の名所なども兼ねて、永田さんが気になった植物をひとつずつ紹介していただきます。

 

先日の富山中央植物園での勉強会の折に、あるアカバナが話題になった。在来のアカバナの1種だが、まだ日本の植物図鑑には名前はおろか、解説も載ったことがない。最新の平凡社の図鑑、『改訂新版 日本の野生植物』にも名前さえ載っていない。唯一、名前が載って、わずかながら解説があるのは、大井次三郎著『新日本植物誌』だけである。植物の同定に困ったときに、最終的に私が開くのはこの本である。

勉強会の翌日はメインのチョウセンミネバリを観察した後に、私の希望で折立にヤマクワガタの果実を見に行くことになった。そのときにそのアカバナ「ムツアカバナ」が咲いていたのである。標本ではなく生きている実物に出会えたことに感謝した。

 

 

道脇の少し湿った場所に何本か群れて、ちょうど花盛りだった。アカバナの同定では、まず柱頭の形を見る。4裂するオオアカバナとエゾアカバナを除けば、柱頭は頭状か棍棒状である。

 

 

種類が多いので見極めはなかなか厄介である。肝心のムツアカバナは柱頭が棍棒状。なによりの特徴は花の咲く茎の上部には著しい腺毛と開出毛が混じり、茎の下部には屈毛だけが生えるという他のアカバナ類には見られない特徴があることである。

 

 

肉眼で見ても花茎の上部にびっしりと生えている毛はわかるほど目立っていた。逆光で見ると白く光っていた。花茎の上部に生える毛と、花茎の下部に生える屈毛とは毛の種類が明らかにちがう。これにはいささか戸惑うが、この2点を押さえれば間違うことはないだろう。

 

 

学名はEpilobium pyrricholophum var.  curvatopilosum  である。つまり、アカバナの変種ということなのだが、見た感じではアカバナとはかなりイメージがちがうのである。

はじめて出会った植物だが、日本での分布は北海道と本州、そして九州、海外では南千島に分布するという。時間がなくて細かい部分のアップ写真を撮ることができなかったが、特徴はしっかりと覚えたので、次回に出会う機会があれば、じっくりと細部を撮影したいものだと思っている。

 

撮影は2023年8月27日 富山県立山町折立で。

 

永田芳男(ながた・よしお)

1947年生まれ。植物写真家。おもな著書に『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』『増補改訂新版 絶滅危惧植物図鑑レッドデータプランツ』(いずれも山と溪谷社)など多数。

 

★図鑑.jpにはムツアカバナが掲載された図鑑はありません。

 
【図鑑.jpのアカバナのプレビューページ】

https://i-zukan.jp/category/syu?category_id=7522

★プレビューページは無料です。初めての方は2週間の無料体験が可能です。

 

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