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永田芳男さんの日本全国花行脚

第4回 白いシラネアオイを探して ~北海道紋別岳~

2023-06-02

『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』や『レッドデータプランツ』などでおなじみの植物写真家の永田芳男さん。髭がトレードマークで髭さんと呼ばれていましたが、いまでは髭も真っ白くなりました。三つ子の魂百までで、いまだに植物を追いかけて日本全国花行脚を続けています。旅先で出会った野生の草や木を主体に、時に花の名所なども兼ねて、永田さんが気になった植物をひとつずつ紹介していただきます。

 

シラネアオイは日本が世界に誇ることができる花である。日本の固有種であると同時に1属1種という貴重さに加え、誰からも好かれる大輪の花。文句なく日本を代表する花である。国花をシラネアオイに変えても何の不思議もないほどの花なのである。

 

 

本州の中部から北海道の西南部にかけて分布し、場所によっては大群生する。日本海側に片寄った分布をし、標高の低い場所では4月から咲き出し、高山の残雪のかたわらなどでは7月に花が咲く。垂直分布の幅も広いが、花期の幅もかなり広い。

 

最近のAPGの新分類ではキンポウゲ科に戻されたが、かつては独立したシラネアオイ科だった。キンポウゲ科に含めるには極めて特異すぎるのである。APGの分類には今でも異論を唱える学者は多い。すなわち果実が背腹両縫合線で裂開するなど、キンポウゲ科には見られないいくつかの特徴があるので、未解決のままなのである。今後再びシラネアオイ科に戻る可能性は充分にある。

 

 

また、シラネアオイは花の色にも多彩な変化がある。花びらのように見える外側の4枚は、正しく言えば苞で花弁ではない。つまり花びら(花弁)のない花なのである。薄紫色がシラネアオイの花の色と言っていいが、白から濃い紫色まで色のグラデーションはじつに豊富で、群生地では株ごとに違って見える。今までも各地で白花は撮影しているが、白花の頻度が比較的多いと聞くのは北海道の紋別岳だ。この山は標高は千メートルに満たない山だが高山植物は多い。その紋別岳に2023年5月26日に登ってきた。

 

いきなりの急登ではじまる山は、尾根筋に出るまではこの時期、花の種類はそれほど多くない。数年前から白花狙いで登りたいと思って、シラネアオイの花期は入念に調べていた。しかし、尾根に出る前の樹林帯にもシラネアオイは見られるが花はほとんど終わっていた。大丈夫か、と気にしながら登ってゆくと、尾根筋に出ると、まぁあるわあるわ、シラネアオイが咲き続く登山道だった。今まで撮影してきたシラネアオイと違うのは、生えている環境だった。多くはササと混生し、その中で大株となって咲いているのである。おまけに背景には海が見えるという絶景。海の向こうに三角形に見えるのは駒ヶ岳だろうか。すぐ近くには昭和新山も見える。

 

 

次から次へと撮りたくなる鮮度のいい花が咲いている。足は遅々として進まない。だが目的の白花がなかなか現れなかった。チシマフウロやミヤマアズマギクなどの高山植物が、踏んづけてしまいそうな登山道の真ん中に咲いていたりする。急な滑りやすい斜面にはロープの設置などもあり、ともかく道幅が狭いので、混雑時はすれ違うのが大変かもしれない。

 

 

 

もしなくてもこれだけの花々が見られたのだからいいか、と思い始めた時だった。あった。完全に純白の花の株がすぐ登山道脇に。狙っていた大株は花の最盛期をやや過ぎていたのが何よりも残念だった。だが、まだまだ絵になる素敵な株だった。それから先も白花と言っていい株がぽつぽつと現れて、充分に楽しませてもらった。

 

 

この日、山頂に着いたのが14時、入山届の箱がある山麓まで下山したのは17時26分だった。

 


永田芳男(ながた・よしお)

1947年生まれ。植物写真家。おもな著書に『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』『増補改訂新版 絶滅危惧植物図鑑レッドデータプランツ』(いずれも山と溪谷社)など多数。



【図鑑.jpのシラネアオイのプレビューページ】

https://i-zukan.jp/category/syu?category_id=5178

★プレビューページは無料です。初めての方は2週間の無料体験が可能です。

 

永田芳男さんの日本全国花行脚

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