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永田芳男さんの日本全国花行脚

第16回 ついにヒメハブカズラの花の撮影に成功 ~沖縄県石垣島~

2023-10-11

『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』や『レッドデータプランツ』などでおなじみの植物写真家の永田芳男さん。髭がトレードマークで髭さんと呼ばれていましたが、いまでは髭も真っ白くなりました。三つ子の魂百までで、いまだに植物を追いかけて日本全国花行脚を続けています。旅先で出会った野生の草や木を主体に、時に花の名所なども兼ねて、永田さんが気になった植物をひとつずつ紹介していただきます。

 

ヒメハブカズラの野生の花の撮影に成功した。石垣島での花の撮影はたぶん私が最初だと思う日本では西表島と石垣島に1ヶ所ずつ極めて稀に自生する。自生の状態を見たことがある人は、私の知る限りでは10人ほどである。それほど稀な植物なのである。環境省のレッドリストでは、当然のことながらCR(絶滅危惧ⅠA類)である。

 

 写真=苞をかぶった花序

 

日本以外では台湾とフィリピンに自生する。図鑑を見るとマングローブに稀に自生する、と書いてあるが、少なくともマングローブと呼べる環境には生えていない。マングローブに生えるのなら、もっと簡単に見つかるはずである。専門的な図鑑でこのような記載だから、当然花期など記されているはずがない。植物学者も見たことがないのである。図鑑の記載は標本からだと思える。それもかなり古い文献か。生態的なことはまだ何も解明されていないが、極めて特殊というか、奇妙な気がする。

自生状態を見てから、花の撮影をしたくて私は4回通っただけだが、石垣島在住の親しい友人にお願いして、時間のある時に何度か行って貰っている。そのような苦労があって、やっと花の時期に出会えたのである。

大きな石や岩に絡みついているものもあるが、これらのものには花が咲かない。花が咲くのは大木によじ登ったものだけである。それもかなり樹高のある大木の先端に近い部分。300ミリの望遠レンズを使って、やっと花が写せるような高い位置で咲いている。

 

写真=大石に絡みついた株。このような個体には花がつかない。

 

写真=つる性で、大木に這い上がる。

 

 写真=花は肉穂花序。

 

今回かなり苦労しながら撮影したのだが、本業のデジカメでは今ひとつピンが甘く、再撮影に出掛けないと図鑑に使えるような画像がない。花が何本も見えているこの画像は、何と最新のスマホのカメラのズームである。

 

写真=花盛りのヒメハブカズラ

 

ともあれ一応花は撮影した。花期も大体わかった。大水の出水によって数メートルに渡って白と緑色のツルだけが流されていたが、それらのツルの塊から白いシュートのようなものが、あちこちに延び出していた。このシュートが石や樹をつかむと、そこから新しい個体が発生するような気がしている。流れを利用するなら生育範囲は沢の下流にもあっていいはずだが、生育地の幅は一定の範囲を出ていない。ともかく奇妙なことばかりである。

 

撮影は2023年沖縄県の石垣島で。

 

 

永田芳男(ながた・よしお)

1947年生まれ。植物写真家。おもな著書に『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』『増補改訂新版 絶滅危惧植物図鑑レッドデータプランツ』(いずれも山と溪谷社)など多数。


★図鑑.jpの掲載図鑑にヒメハブカズラは掲載されていません。

ヒメハブカズラ(サトイモ科)Rhaphidophora liukiuensis

 

 

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