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永田芳男さんの日本全国花行脚

第3回 特別なエゾムラサキとの出会い ~北海道定山渓~

2023-05-22

『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』や『レッドデータプランツ』などでおなじみの植物写真家の永田芳男さん。髭がトレードマークで髭さんと呼ばれていましたが、いまでは髭も真っ白くなりました。三つ子の魂百までで、いまだに植物を追いかけて日本全国花行脚を続けています。旅先で出会った野生の草や木を主体に、時に花の名所なども兼ねて、永田さんが気になった植物をひとつずつ紹介していただきます。

 

ゴールデンウィークの後は北海道の定山渓に行くのが恒例になって久しい。かれこれ10年以上も性懲りもなく通っている。雪解け後に咲く花々の撮影が目的なのだがお気に入りの場所があって、運が良ければカタクリとエゾエンゴサクなどが同時に咲く、息を呑むようなお花畑が出現する場所があるのである。下の写真は2022年の5月10日に撮影したもの。

 

 

その年の雪の融け具合によって、まだフキノトウの世界の事もあれば、ほぼ一面が残雪に覆われていることもある。暖冬の年などはすっかり花が終わっていることもある。ともかく賭けなのである。

 

2023年は5月10日から13日まで行っていたのだが、残念ながら最悪の年だった。カタクリもエゾエンゴサクも決していい状態ではなく、カタクリはほぼ終わり、エゾエンゴサクはまだ一面ブルーに見える場所もあったのだが、花の競演と言えるような状態ではなかった。キバナノアマナなども多い所なのだが、花はほとんど終わっていた。唯一の救いは周りの山々にオオヤマザクラが多く、それらが淡く煙る新緑の中で、ひときわ明るく咲き誇っていたことである。

 

ガッカリしながら三脚にカメラをつけたまま、山の奥深くに歩いていった。最近はこの付近でもヒグマの目撃が多いので、近くを道路が走っていても決して安心して歩けないのである。ミズバショウが咲いてはいるが、カメラを向けたくなるような新鮮な花ではなかった。やっと撮影する気になったのは、葉の陰に隠れるように花盛りだったオクエゾサイシンの群落を見つけた時だった。

 

それからさらに歩いていくと、白樺林の白い木肌が輝いている疎林があって、そこに足を向けた時だった。地面がうっすらと青く見える。何だろうと思って道のないその白樺林に入っていった。近くまで行って頬がゆるんだ。エゾムラサキの大群落だったのである。

 

 

それから3時間ほど、ああでもない、こうでもない、と独り言を言いながら撮影に夢中になった。咲きはじめの瑞々しい群落は、どの株を選んでも申し分がないほどの鮮度で、こう言うのが撮りたかったのだと、可愛いなぁを連発しながら、きりがないほど色々な株を写した。

 

 

エゾムラサキも定山渓に来ると、あちこちに咲いているので、毎年のように撮ってはいるのだが、今日出会った群落は特別なものであった。昨日登った夕日岳は、やはり例年から比べるとシラネアオイの数が少なかったので、今年は花たちの外れ年だなぁ、とガッカリしていたのだが、今日のエゾムラサキで名誉を挽回した感じとなった。

 

やはり花は鮮度が第一である。エゾムラサキはワスレナグサの仲間だが、れっきとした日本の山野に自生する植物である。北海道に多いが、本州中部の上高地などでも群生が見られる。ワスレナグサとの違いは、萼が5深裂し開出毛が生えることである。

 

 

永田芳男(ながた・よしお)

1947年生まれ。植物写真家。おもな著書に『山溪ハンディ図鑑 山に咲く花』『増補改訂新版 絶滅危惧植物図鑑レッドデータプランツ』(いずれも山と溪谷社)など多数。



【図鑑.jpのエゾムラサキのプレビューページ】

https://i-zukan.jp/category/syu?category_id=9426

★プレビューページは無料です。初めての方は2週間の無料体験が可能です。

 

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